思うことを吐露し合う-1
芳恵の車を運転し、帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれているころには、芳恵の沈んだ気分も少し上向いたのかもしれない。あるいは、クスリを使われ昏倒し、恥ずかしい恰好で縛り上げられた挙句、老人に犯されたのだ。そのあまりにショッキングな出来事を忘れ去りたいのかもしれない。彼女はしきりに笑顔を浮かべ、
「今日は何を食べたい?お母さん、何を作ってくれるのかなぁ?」
だとか、暗闇に閉ざされ始めた店をあれこれ指を差し、
「あそこのお店、ショーウィンドゥのマネキンのポーズ、変わってるの。ヨガのポーズ?」
と、務めて明るく振舞っている。
そうか!彼女は僕のために明るく振舞っているんだ、と気づいた。彼女の笑顔に触発されて、僕も笑顔になっていた。
そうかと思えば芳恵は、運転中の僕の左腕に縋りつき、神妙な面持ちで呟く。
「恐かった・・・」
芳恵の情緒がかなり不安定なものになっている。感情のコントロールが芳恵自身、うまくできていないらしい。
「縛られたことが?縛られて、レイプされて、恐かったの?」
芳恵の心の傷に触れるまいとは思ったが、自由を奪われてのセックスは、僕も瑠璃子夫人に強いられている。ピクリとも動かない裸体の老人の姿も鮮烈だが、デスクに繋がれ、恐らく無理矢理に挿入された芳恵の恐怖はわかる気がする。いや、すべてを剥き出しにされ、縛られた芳恵の白い肌が、目に焼きついて離れなかった。
ところが、である。芳恵は僕の左腕に額を擦り付けるようにして、いやいや、とかぶりを振った。
「違うの・・・聞いて・・・」
芳恵はその瞬間の恐怖について、語り始めた。