競泳200m自由形−41歳の誇りをかけて-1
ビーナスゲームズは1つのスタジアムでいくつもの競技が同時に行われている。ほのかが陸上のスプリントで奮闘している時、プールでは競泳の予選が始まっていた。スタートは陸上トラックの2コーナーの近くなのでほのかがいるトラックに背を向けた形で飛び込むことになる。
最初の種目は紀子が出場する200m自由形。コースロープもスタート台もない100mプールを1往復する。1組10人の予選で上位4位までに入れば準決勝に進む。紀子は5組あるうちの2組目に参加する。スタート地点には1から10の番号がふられていて選手は番号の上から飛び込むようになっている。紀子は6番のマークに立つ。隣の5番のマークに立つのは紀子と同じ41歳でも現役スイマーとして活躍している高橋美奈子。水泳専門誌の対談で共演したことがある間柄で、練習期間にも健闘を誓いあっていた。
2組目は年齢層がなぜか高い。20代は2人、40代2人、あとの6人は30代だ。とはいっても現役スイマーばかり。練習期間のタイムトライアルでいいタイムが出たからいい位置からスタートするだけであって紀子にとってはかなり手ごわい。スタート位置のマークに立つと緊張が最高潮に達する。10人がスタート位置にたったのを確認してスターターが号砲を構える。
「用意!」
10人のスイマーが前傾姿勢をとる。そうするとヒップの奥から女性器が見える選手もいる。
「ドーン!」
号砲が鳴り響くとともに、スイムキャップもゴーグルもつけていない生まれたままの姿の女子スイマー10人がプールに飛び込む。コースロープは張られていないが10人はまっすぐ進む。15m過ぎて10人は浮かび上がる。美奈子がトップ、紀子が3番手になっている。このプールは通常の倍になる100m。いつもの感覚でペースを上げると体力をすぐ消耗してしまうと考えた紀子はあまり飛ばさないように慎重についていくことにした。25mプールよりも50mプールの方がタイムが出にくいから100mならなおさらだという認識はどのスイマーにもあった。しかし、トップを泳ぐ美奈子は75m過ぎたところで最初のスパートをかける。2番手の大学生、森はるなは美奈子についていこうとするが3番手の紀子は動くのはまだ早いと判断してあまり動かない。
100mでターンを迎える。自由形のターンはほぼ1回転するクイックターンなので、選手によっては瞬間的とはいえ女性器が水面上でちらりと見える。選手は恥ずかしがる様子はない。というよりも、気にする暇がない。美奈子や紀子はそうでなかったが、全裸練習を始めて間もない頃、股間を水面上に出さないために平泳ぎとバタフライでやるようなターンをする自由形の選手がいた。しかし、スピードのノリが悪いことに気づいてすぐにクイックターンにどの選手も戻していた。
ターンして15mのポイントで真っ先に浮かび上がったのは美奈子。ペースは少し上がってきた。逆にはるなのペースが落ちてきて紀子との差が詰まっている。紀子はここがチャンスだとピッチを上げる。しかし残りは85mあるし、必ず1着でなければならないわけではない。美奈子に無理に追いつくよりもはるなを抜くだけでいいと考え、紀子はすぐにフルスピードにしない。
じわじわとペースを上げていくのを不気味に感じているのははるな。初めて対戦する紀子の作戦を自分の引き出しだけでは読めない。普通なら紀子を気にしないで美奈子についていくが、紀子との差がじわじわと、そして確実に詰まってくると逆にスタミナが切れてしまうのではないかと不安にもなる。スタミナが消耗すると身体も重く感じる。とりわけEカップのバストと形のいいヒップはなおのことだ。
残り50mではるなの呼吸がだんだん荒くなる。紀子は抜きにかかる。紀子はここが勝負と思った。紀子のFカップの揺れが大きくなっていく。残り25mではるなを抜き去った。ここからフィニッシュまではもうペースを上げなくてもいいが、紀子は2着をより確実にするためにペースを落とさない。Fカップはブルンブルンと音を立てるかのように揺れ続ける。残り5mでトップを行く美奈子との差は体半分までに詰まる。あわよくば…という思いももたげたが美奈子を抜くことはできず紀子は2着で準決勝進出を決めた。隣にいた美奈子と互いの健闘を称えハグをする。
「紀子さん、燃えてきたでしょ?」
「思った以上の力を出せたし、もっとできそうな気になってきたし。準決勝も楽しくなりそうね」
2人の40代アスリートは少女のような笑顔を浮かべている。