一夜の夢-2
その痛みはすぐに消えても寄ってたかって犯された感触の記憶を体の芯に刷り込ませているようだった。
「お母さん、オレンジのシャツ。ちゃんとアイロンかけといてよ」
酔っていて鮮明には憶えていないのに感触だけが体から離れずにいて、時々私は呆っとしてしまう事がある。それはまるで覚めた夢の後追いをするような気分だった。
取り込んだ洗濯物を畳んでいると、あの時に着けていた薄紫の何気ない下着が目についた。
そうしてまた、手探りに熱い夢の続きをたどっていると不意に長女が声をかけてきた。
「アイロンぐらい自分でできるでしょ?」
「いいじゃない。お父さんのシャツだってアイロンかけてるんだからついででしょ?」
いつの間にかおませになって洗いざらしのブラウスを身に着けているのがみっともないのだという。
この子もいつか、こんな風に得たいの知れない体の熱さを感じる日が来るのだろうか。
気になる男の子の話など口にした事はなけど、もうこっそりオナニーぐらい覚えているのだろうか。
いまの私はまるでそんな時期の自分と変わらないような気がする。
それから半年ほども経った頃に駅前で見覚えのある男性にばったりと会った。
その人は私といくらも変わらない。三十代後半というところだろうか、私もはっきりとは憶えていなかったけど会ったらすぐに思い出したあの時の男性客のひとりに違いなかった。
「ここの事が忘れられなくてさ。有給休暇を消化するのにふらりと来てしまったんだよ」
「こんな何もない田舎町で思い出に残る事なんてあったの?」
「そりゃあ・・・君の事が恋しかったに決まってるじゃないか」
あの時の四人は大学時代の友人でここはその中の一人の郷里だったという。
その人の身内も、もうここにはいないのだけど静かな所で小旅行を楽しむ趣向だったらしい。
それがあの中の誰なのかはもう私には分からないけど、年齢からすると同級生ぐらいだったのかも知れない。
あの一行の中のひとりは私の事を執拗に誘った。それがこの街の出身者だとするとうろ覚えにも私を知っていたのかもしれない。
「お姉さん迷惑してるじゃないか」