暗闇に浮かんだ目-1
二度連続の射精に、さすがに僕は疲れを覚えた。弛緩した肢体で息絶え絶えの芳恵の横にゴロリと横になり、喘ぐように天井を見上げる。
その時、ギシリ、と床板を踏みしめる音がしたように聞こえ、僕ははっとしてその音の鳴った方向に顔を向ける。
部屋の入口だった。開き戸がわずかに開いている。芳恵が締め忘れたのだろうか?
なんとなくその戸の隙間を眺めていると、暗い闇の中、キラキラと光るものを見た気がした。じっと見つめていると、それは瞬きをする。目、だった。
オトコの僕だ。空手をやっているほど、腕に自信はあるのだが、暗闇に浮かぶ目を見つけた時はさすがにゾッとした。怖さもあったが、やはりその目の主を確かめずにはいられない。瞬きする闇の中の目を見つめていると、相手も気づいたのだろう、奥の方に引っ込んだ。
僕が立ち上がると、扉の向こうでコトン、と物音がした。続いて、微かだが足音が遠ざかって行ったように聞こえた。
目の主が立ち去った。それが分かっても、確かめずにはいられなかった。扉へと歩み、戸を押し開けると、何か引っかかる感触が扉にあった。
廊下に出る。電気を点けたが、やはり誰の影があるというわけでもない。廊下突き当りまで見に行ったが、芳恵の家は寝静まり、物音一つ聞こえない闇が、居間や台所、玄関の辺りまで広がっていた。
芳恵が眠り込む部屋に戻る途中、扉を閉めようとしたときに、廊下に落ちていたものを見つけた。それが扉の開閉に引っかかった感触を残したものだとすぐわかった。おかしなものだ、バナナが一本、落ちていた。
拾い上げてみると、そのバナナ、濡れている。なぜここに?と訝り立ち尽くしていると、息吹き返した芳恵が、戸口に現れた。
「ん?なあに?どうしたの?」
僕は黙って手にしたバナナを彼女に差し出す。芳恵もまた怪訝な顔をしていたが、バナナの湿り気を見つけると、はっとした顔になった。
芳恵が、僕がしたように、廊下に出て、居間の辺りまで行って戻ってきた。後ろ姿は幾分かがに股で、激しい性交の証と気づき、僕はつい笑ってしまう。芳恵が僕の笑いに気づき、少しすねた表情で、
「・・・激し過ぎるのよ」
と、こぼすが、セックス自体は満更でもないらしい、微笑を忘れず残してくれた。
足を忍ばせ、部屋に戻る彼女に続き、僕も彼女の背を追った。布団の上に座り込み、芳恵は股間からあふれ出た僕の白濁をティッシュで拭き取りながら、僕にそのバナナを差し出した。
受け取った僕に芳恵は、
「その濡れたところ・・・。匂い、する?」
と聞いてくる。嗅いでみた。するとバナナの臭気に混じり、芳恵の匂いがした気がした。
「なんで濡れているのかな?」
僕は素直にそう呟く。
芳恵がふっ、とため息を吐いた。
「見られたわ・・・」
「え?見られた?」
「そうよ。それ、部屋の入口に落ちていたんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「誰か、いた?」
芳恵が怖がるといけないと思ったが、床を踏みしめる音に気が付いたこと、扉が少し開いてその中に目があったこと、忍び足が遠ざかっていたことを話した。
芳恵はいちいち頷いた後、ポツリと言った。
「アタシたちがセックスしてるとこ、見られたのよ。・・・お母さんに」
「お母さんに?」
牧子が戸口に立ち、僕らのセックスを覗き見ていた、というのだ。
「そうよ。そのバナナ、なんで落ちていたのかわからない?」
そこまで言われて、合点がいった。牧子は、僕らのセックスを覗き見るだけじゃなかった。彼女は覗き見ながら、そのバナナでオナニーをしていたのだ。
闇の中、目を凝らし、自分の娘が親戚の若いオトコに犯される様を覗き見る牧子。彼女は興奮し、衝動を抑えることができなかったのだろう。最初は指で秘唇を弄び、鎮めようとしたのだろうが、僕が激しく芳恵を貫くさまを見て、指では収めきれないと悟った牧子。彼女は台所に忍び込み、男根に似たバナナを選び、ここに戻ると、それを挿入して覗きを愉しんでいたのかもしれない。
僕が気付いたと知り、慌てて逃げ出したところ、挿入してたぐるバナナが股間より抜け落ちた。濡れたバナナを残し、牧子は自分の寝室へと、急ぎ逃げ帰った、というわけだ。