のぼせる僕-1
夕食が済むと、牧子は僕にお風呂を勧めてくれた。芳恵はというと、娘の遥香を寝かしつけているという。着替えがないことに気づいたが、勧められるままに僕は湯舟を使わせてもらった。
ひとりになり、湯船に身を沈めていると、目に浮かぶのは芳恵のカラダ。肌ざわり。黒ずんだ乳首や目に鮮やかな彼女の亀裂。そして僕を含んでくれた、笑みを絶やさないあの唇。
特に結合部を見せつけてセックスしたあの情景が脳裏に浮かぶ。
(あの穴・・・。襞に秘められた中の、あの宝石のようにああやかなピンクの亀裂。あんなところから、遥香を産み出したというのか?)
そう思うと不思議である。
湯船の中、僕の陰茎は鋭く起き勃っていた。
(ああ、また芳恵の中に入れてしまいたい・・・)
ぼんやりと彼女のカラダを思い出し、ひとり興奮していると、風呂場入り口の擦りガラスに人影が見えた。
「どうですか?お湯加減は?」
どうやら牧子がガラス戸の向こうにいるらしい。
「あ、あ、は、はい・・・。いい気持ち、です・・・」
淫靡な妄想から引き戻された僕だ、しどろもどろにそう答える。
「温まりました?」
「え、ええ。もうじき湯船から出ないと、茹ってしまいそうですよ」
「そう。うふふ、良かったわ」
牧子が鈴の転がるような声で笑う。若い、少女のような声だった。
彼女は立ち去らず、扉越しにこちらを窺っているようだった。そのうち、
「あ、あの・・・。お背中を・・・」
と、やや緊張した声音でそう言った。
「え?」
驚く僕の向こうで、扉がそっと開けられた。そこから現れたのは、先ほどの楚々とした姿の牧子ではない、ホットパンツにタンクトップ姿の彼女が居た。
「男の人がおうちにいるなんてね。夢みたいだわ。さ、お背中流しますから、お湯から出てくださいな」
そう言って、遠慮なく風呂場に入ってくる。逃げ場なく、僕は慌てて股間を隠そうとするも、後ろ頭に手を組んでいたことが災いした。
(見られた!)
芳恵の面影に勃起した股間、それを見られてしまった。慌てて彼女を仰ぎ見れば、牧子は何も言わず、目を逸らし、顔を赤らめていた。
牧子はそれで逃げ出すか、と思っていたが、思惑は外れる。彼女は何事もなかったかのように、湯に手を挿し込み、僕の腕をそっと掴む。
「ま、腕がたくましいわ。空手、やっていたんでしたっけ?」
と言いながら、その腕を引く。
「さ、お背中を流しますよ」
と、有無を言わさぬ勢いだった。
僕は往生際悪く、腰がひけての格好で湯船から引き出された。
「ホント、大きな背中ね?ね、覚えています?あなたがホントにちっちゃい頃、わたしがお風呂に入れたのよ?」
覚えている限り、芳恵の母に風呂に入れられた覚えはなかった。
「いつの頃です?」
悪気はないがそう答えるしかない。
牧子はまた鈴の音のような笑い声を放ち、泡立てた垢すりで僕の背中を洗いながら、言った。
「そうねぇ、覚えていないわよね。ホントにちっちゃい頃よ。幼稚園に入る前、かなぁ?」
後ろで牧子は愉しそうに言う。
「でも、立派になったねぇ。ホント、ホント・・・」
彼女の手が止まり、感慨深げにそうこぼす。