盛夏-2
「あ、あの、僕なんかが…、華ちゃんのお部屋に行って…、いいの?…」
華はコクンと頷いた。
こんなにも恥ずかしいことを華に言わせた亨にも、覚悟が求められた。
「は、華ちゃん…、じゃあ…、い、行こうか…」
言葉が震えていた。
とならば、一刻も早く。亨の気持ちは高ぶった。
「ね、ねえ、華ちゃん。穴開神社の境内を通って行こうよ。近道だから…」
「でも、ここ、立ち入り禁止って書いてあるし、先生も無人の神社だから通らないようにって言ってたわよ…」
「大丈夫だよ華ちゃん、さ、早く…」
これが運命の分かれ道だった。
すべては僕のせいなのだ。この後の記憶は消し去りたい…
亨はやるせなくなり顔をあげた。
また華と目が合った。
頷いた華は一呼吸おき、話を続けた。
「プール講習の最終日でした。亨君と帰る時、私はコーチをしてくれた亨君に、得意のアイスオーレでお礼がしたくて、お家に誘いました。亨君は、近道だから穴開神社の境内を横切って帰ろうって言いました。私も早くお家に帰りたかったので反対しませんでした。これが間違いでした。ご存知のとおり、あそこは普段は無人のため、入ってはいけないと言われていたときろです。私達はこっそりと、境内に入りました。すると、そこには、暴走族みたいなガラの悪い男の人達が数人いたんです。私達は彼らに絡まれました。そして社務所の中に引きずりこまれたのです。亨君は私を守ろうとしてくれましたが、彼らに殴られて縛り上げられてしまいました。そして…」
華は一旦言葉を詰まらせた。しかし再び姿勢を正して正面を見つめた。
「そして私は…、私は…、彼らに押さえつけられて…、亨君が見ている前で、彼らから…、乱暴されました。何度も何度も、激しく乱暴されたんです!」
華の衝撃の告白に、教室は慄然とした雰囲気に呑みこまれた。誰もが言葉を発することが出来ず、口を半開きにしたまま呆然と華を見ていた。華の言った『乱暴』が、どういうことを意味するのかは、もうみんな知っている。
「本当はこんな恥ずかしいこと、話たくはありませんでした…。でも、女子には私の体験が教訓になるかもしれないし、男子には優しくなって欲しいから、あえて、そのときのことを、詳しくお話しします」
華は自分に言い聞かせるように話を続けた。