想[5.5]-2
結局俺たちは負けた。賞状を貰った後、俺は遠回りをしてE組の祥太に話し掛けた。
「よう」
「よう、名屋。準優勝おめでとう」
「どうも。もしかしてあの後ろ姿」
俺は顎で一人の背中を指した。
「あぁ、そうそう。安達」
やっぱり。そう思った時、主里が後ろを振り返った、が、すごい勢いで戻っていった。
目が…合ってしまった。時間が止まったかのように息ができない。かぁっと顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
「じゃ、行くわ」
赤い顔が見られないよう俺は急いで立ち上がり、さっさと自分の列に戻っていった。
俺、きっと好きなんだ。主里の仕草に、声に、笑顔に。話したこともない君を想うのはおかしいかもしれない。だけど俺は、確実に君に恋していた。
クラスで打ち上げがあるらしいが断った。自分の気持ちに気付いたんだ。優衣のこと、ちゃんとケジメを付けないと…。
どう切り出すか、いろいろ考えながら自転車をこぐ。自然とスピードが付き、前を走るカップルを抜こうとしていた。別に覗き見する訳じゃないけど、女の方がうちの制服だったら気になんじゃん。
追い越す時、失礼にならないよう少しだけ顔を見る。
……!
主里…?
俺は前を見据え、漕ぐ足に力を込めスピードを上げて、その二人を抜かしていった。
彼氏がいたのか。何で、そういうことに気付かなかったんだろう…。舞い上がりすぎた。馬鹿だよな、俺。でも、優衣ともこのままずるずる継続させる訳にはいかない…。
俺は自分の部屋に入ると、優衣に電話を掛けた。
『もしもし鋼吾、どうしたの?』
「ちょっと、優衣に話がある」
『え…な、に?ずいぶん真剣だね』
そこで一呼吸置いた。
「…俺、気になる子がいるんだ。だから」
『待って!』
俺の言葉は優衣に遮られた。
『その続きはまだ聴きたくない!!』
「優衣…」
『明日一日…考えさせて欲しいの。明後日、会えないかな?』
「うん、大丈夫…」
『…ありがとう。じゃあ、いつもの公園でね』
「…優衣。俺、優衣が告白してくれたの嬉しかったから。これから好きになってくれればいいって…本当に嬉しかったから」
『…明後日』
ブツッと一方的に電話が切れてしまった。
…これで良かったのか?
優衣は何も悪くない。優衣を嫌いになった訳でもない。だけど、それ以上の人に出会ってしまった。俺は、こんな気持ちのまま付き合っていけるほど器用じゃない。このまま付き合っていれば優衣をもっと傷付ける。やっぱりこれで良かった。
彼氏がいるって分かっても、俺はすぐに諦められない。恋人になれなくていい。二人を引き裂こうと思わない。ただ…ただ…。
…ただ、友達になるくらいなら。今俺たちは、接点も何もない。なら、せめて友達ぐらいにはなれないだろうか。この想いは心の奥底に置いてくる。何も望まない…。
だから俺は、主里から少し離れて並んだ。そして、主里がしていたように、空を見上げた。主里が見上げる空には何があるんだろう。そう思って暗くなった藍色の空を見上げた。
だけど、俺には何も見つけられなかった。主里は、何を熱心に見ていたのだろう。一つ一つの仕草さえ気になってしまう。
心臓がバクバク鳴った。頭が真っ白になって、意識が飛びそうだった。だけど、やっぱりこのままじゃ満足出来ない。君の仕草、声、笑顔。せめて友達という立場から見ていたい。俺は勇気を出して口を開いた。俺が少しでも主里に近付けるよう祈りながら…。
「ねぇ、何かあんの」