帰らぬ妻 (2)-2
私の位置からは、三人の様子がちょうど真横から見える。
愛する妻が、二人の男に前から後ろから、犯されている。後ろからは身なりのよい男に立ちバックで挿入され、前からは冴えない風体のサラリーマンにはだけた胸元をまさぐられている。それだけではない。サラリーマンの醜くたるんだ腹の下からは、ペニスがにょきっとを突き出ており、その先端は、女の唇と接触している。まだ、少し触れているだけ、まだフェラチオではないと言えるギリギリのラインで口を閉じ、耐えるゆき。しかしその我慢も限界が近い。唇が、少しずつ開いていく。
「んん……ぷ……ん……!」
サラリーマンはもう一方の手にスマホを持ち、自らの股間に顔を埋めんとするゆきの様子を撮影している。乳首をつまんで小刻みに震わせたり優しく手のひらで転がしたりして性感を与えつつ、女の口内に自らの醜いペニスが埋め込まれていく様子を楽しんでいるのだ。
「ん……んん……! んぁ……、んがっ……! んぐ……! ぷは……っ」
ゆきは必死に口を閉じようとするものの、喘ぎ声が漏れ出るたびに唇は開き、開いた分だけ男根の侵入を許してしまう。
「んむ……! んんんむ、ぁむ……! ぷ、ぶぷ……!」
亀頭の半ばは、すでに妻の口内に入ってしまっている。涙目で抵抗しているにも関わらず、当のサラリーマンによる乳房への刺激に、思わずよがり声を発してしまう。そうするとペニスはまた一段深く、口に割り込んでくる。夫として、妻のこのような姿を見るのは耐え難い。自分でけしかけたくせに、猛烈な後悔に襲われる。ゆきやめて、フェラチオしないで――股間を固くしながら、今まさに、他人棒を咥え込もうとしている、愛する妻の口元から目が離せない。
「ん……んぐ……ぷ……」
ゆきの唇がついに男のペニスのカリ首を捉えた。張り出した出っ張りに唇はさらに大きく割られ、歪む。
「んむ……ぁむ……ぐ……!」
亀頭全体の侵入を許すと、後は早かった。男の股間の汗とカウパー液、それにゆきの唾液が混じり合い、陰茎はスムーズに挿入されていく。
「ぁ、が……ぐ……ぷは……っ!」
息苦しさについ口を大きく開けてしまう妻。そのときを逃さず、サラリーマンの男性器が一気に挿し込まれる、
「んぷ……! ぁ……が……んん、ん……」
私が世界で最も愛しているの女の口の中に、名前も知らぬ、たまたま通りすがっただけの男のペニスが、完全に入ってしまった。
「じゅぷ…………じゅる…………ちゅぷ…………」
「奥さんありがとう……最高です、あぁ温かい……気持ちいい……」
いつの間にか左手薬指を確認したのだろう。呼び名が「奥さん」に変わると、場の背徳感がいや増していく。
男が腰をゆっくり前後に動かすと、おぞましい陰茎が、ゆきの口から出たり入ったりし始めた。幾度も、繰り返し、ゆっくり、ねっとり――。
「じゅぷ……ちゅぷ……ちゅぱ……じゅる……ちゅぷ……ちゅぱ……じゅる……」
ああだめだ。もうここまで来たら完全にフェラチオだ。亀頭だけならまだ「ちょっと押されて当たってしまった」と言い訳ができたであろう。しかし陰茎まで入ってはもうだめだ。これでもう完全なフェラチオだ。強制的であろうが望まぬ行為であろうが、フェラチオはフェラチオである。これでゆきの「フェラチオ経験本数」が一本増えてしまった。セックス経験人数よりも、フェラチオ本数のほうが多くなるという、女性としてかなり恥ずかしいことになってしまった。今後の人生、「妻のセックス経験人数は六人で、フェラチオ本数は七本」だと頭をよぎるたびに「その差一本」について考えさせられることになる。そのたびに、この路地裏3Pフェラチオシーンがフラッシュバックしてしまう。一生、ずっとだ。
結婚したばかりの頃、気のおけない友人たちとの酒の席で、ゆきの男性経験をしつこく聞かれ、「私以前に過去3人」だとこっそり教えてやったことがある。いつの時代も、知り合いの奥さんの男性経験というのは、男にとってなんとなく興奮してしまう話の筆頭なのだ。まして、結婚式で見たあの超絶美人新婦の経験人数である。友人たちは大喜びしていた。今度彼らに会ったら教えてやろうか。「おい、俺の嫁さんの経験人数、増えちゃったよ」。あいつらはどんな顔をするだろうか。「お前入れて四人だろ?」「いや、六人」「え?」「あと咥えたチンコの本数は七本になったよ」――。友人はきっと憐れみの表情を浮かべながら、股間を固くすることだろう。結婚後に、妻側の男性経験が増えるという、その意味するところを考えるに違いない。さらにはフェラチオ本数が、セックス経験人数よりも一本多い、この不自然な状態に至った理由にあれこれ想像を巡らすのだ。どんな理由であれ、恥ずかしい理由であることに変わりはない。友人の美人妻が、人には言えぬ事情で男根を咥えさせられ、しかし挿入には至らず終わるあらゆるシチュエーションや関係性を想像し、興奮してしまうのだ。