テキスト・ブック-1
こっちへこい
私を解き放て
お前にはその資格がある
なぜならば
オマエハワタシノカタワレダカラ
「!!!」
突然目を覚ました。ここは以前航空機内、イタリア行きのファーストクラス。
僕宮本信哉は夏休みを利用してイタリア旅行を計画した。 これはその第一歩目。トラブルは許されないし、依然その様子はなかった。
「う〜ん」
それにしてもさっきの夢はなんだったのだろう?
最近同じ夢ばかりを見る。いったいなにを意味するのか…僕の深層心理の反映なのだろうか…僕の深いところでなにかが僕を呼んでいる。そんなもやもやをかき消したくて、つい、子供の頃によく連れていってもらったイタリアへ、今度は自分の足で訪れようと思ったのだ。
溜め息をついて窓の外を見やる。すでにトルコ上空を飛んでいるようで、眼下にはトルコブルーの空が広がっている。僕はこの光景が好きで、子供の時は毎回窓際を選んだ。深く気持ちを吸い込むような空がなにかそこしれない深さをたたえて、ただただ大きく広がっている。昔からなにもかわらない、清廉そのものだった。
「?」
なんだろうあれは?あれは…山だ…雲の衣を抱いて昼下がりの子犬よろしく寝入っているかのようだった。しかしそんなことは問題ではなかった。
アンナトコロニヤマナンテアッタカ?
「タク!」
拓哉は我に帰って振り向いた。
「どうしたの?ボーっとして」
彼女は井上サヤ。幼馴染みなのだが腐れ縁といおうか…高校一年を除けばすべて同じクラスで、そのせいもあってか随分仲がよくなっている。なかなか面白いやつで、特に高校受験のときに
「さぁ、ちゃっちゃとやって帰ろうか、見たいテレビがあるのよね」
といってまわりをあきれかえらせたのは今でも時々話題に上る。
「ああごめん、あそこの山が、このまえはあったかなーって思って」
「え?どれ?よくわかんないや」
山はもうなかった。とうりすぎてしまったのだろうか…
「ちょっと疲れてるんじゃない?最近元気なかったしさ、もぅちょっと寝たら?」
そうするといって寝入ってしまった。