秘書の告発-1
美鈴が朝、仕事の支度をしていると特捜部の固定電話より連絡が入る。昨晩当番の部下の検事からだった。
『チーフ!たった今山海の所在不明だった秘書の北島から連絡が有りました!』
とその若い検事は勢い込んで言ってくる。美鈴は微笑みながら、
『何て言って来たの?』
と聞くとその検事は、
『取り引きがしたいと言っています。
と答えて、
『ただ、特捜部には行きたく無いそうです。』
『ホテルでの話し合いを望んでいます。』
『こちらの指定する場所で良いそうです。』
と矢継ぎ早に言ってくる。美鈴は落ち着いた声で、
『解ったわ。』
『秘書には1時間後折返し連絡すると伝えて。』
と頼むと急いで出掛ける支度をする。時計を見て、
【猛は、まだ寝てるわね。】
と思い、居間の隣の食事用スペースに有るテーブルに万札を数枚を、食事代と書いてたメモ用紙共に置いた。
【後でメッセージアプリで連絡も入れよう。】
と思い、時計を見て急ぐ。さっき公用車の手配を頼んだ時間に近づいていた。慌ただしく出て行く。
猛は起きてトイレに行こうとしていた。美鈴が急いで出て行くのが分かった。
【また、緊急の要件が入ったんだな。】
と思い、美鈴がお金を置いたテーブルに行く。お金とメモを見て、
【やっぱり、そうか。】
と少し残念だった。それは、食事が外食やコンビニになるからでは無い。それは全然苦に成らなかった、慣れていたし食べ物は何でも良かったのだ。
美鈴が忙しくなると、何日も泊まりになったり帰って来ても文字通り寝るだけの生活になる。猛がガッカリしていたのは美鈴が自宅で入浴しなくなる事だった。
ましてや昨晩見たいな時間は、美鈴は当分取れないだろう。猛は美鈴がまた昨晩見たいな行動を取るのかとても興味と言うより期待していた。猛は確かめたい事が有ったのだ。
美鈴が特捜部に着くと、ホテルの1室を予約して秘書の北島に電話してホテル名の部屋番号を伝える。北島との話し合いには美鈴と連絡して来た部下、念の為に自分に警護役で付いている刑事2人の4人で会う。
北島は予定の5分前に部屋にやって来た。政治献金規正法を犯した山海に加担した為、裏帳簿の提出を条件に司法取り引きを望んだ。美鈴が大原から山海に渡った1億円の件かと聞くと北島は認めた。
美鈴は、裏帳簿の提供と裁判での証言が司法取引の条件だと言うと北島は承諾した。実は、司法取引は美鈴に会う為の方便で与党幹事長山海、そして関わっているであろう大原源蔵の罪を告発する為だと言う。
その内容は、驚くべき物だった。裏帳簿を見せて大原からの1億円は、山海が16才の女子校生を妊娠、堕胎させた慰謝料と手切れ金。堕胎出来る期間を過ぎた為に違法な手術をした医師への謝礼。
そして、このスキャンダルをたまたま知った地方の政治記者3人の事故に見せ掛けた殺害の依頼料だと言う。美鈴達は仰天した。与党幹事長が殺害依頼をするとは、にわかには信じられず証拠は有るのかと聞く。
北島は、所在不明な山海の運転手の山本は甥だと言いう。山本が記者殺害やその他の証拠を持っていると言った。山本が大原と関係を深めてからの山海の非合法ぶりに危惧して、自分の身を守る為山海の車や事務所に隠しカメラを仕掛たと言った。
美鈴がその運転手山本と連絡を取りたいと持ち掛けると北島は自分の処遇を見て検察や警察に協力するのを決めると言っていたと言う。美鈴は記者殺害に関しては調査等を行い確認しないと何とも言えないと返答した。
北島にまた連絡すると言って取り敢えず帰した。保護を申し出たが検察や警察には山海や大原の息の掛かった政治家の手先がいるとして断られた。だが美鈴はこの前の写真公表で信頼出来るとして今回会ったのだと北島は言った。
特捜部に戻ると部下達と間近に迫った山海の収賄罪裁判に向けての準備を進める。そして、記者殺害の調査は美鈴の警護役の刑事を通じて内密に頼んだ。
大原源蔵は昼過ぎまで寝て起きると、ベッドで食事しながら黒川と話していた。昨晩は更に会う予定の政治家や官僚が増えた。結局、邸宅に帰ったのは深夜になり深酒をしたのだ。
『俺が裁判に負けて収監される前に銭貰っとこうと言う図々しい連中だ。』
とまだ怒りが収まらない。黒川が、
『その分、金で動く連中ですから。』
『小物ばかりですが。』
と言うと源蔵は頷き、
『まあな、元は取らせて貰うぞ。』
『もう、山海は駄目だろ。』
『他にいるか?使える奴』
と聞く。黒川は、
『総理には成れない男ですが、政調会長の岸山はどうですか?』
と提案する。源蔵は、
『あのボンボンか?』
『金になるのか?』
と聞く。黒川は、
『外務官僚上がりでODA利権が有ります。』
『海外でグループの建設業を展開されては?』
と話す。源蔵は頷き、
『金配るか、タンマリと。』
『器じゃ無いのに総理狙っとる。』
『飛びつくやろ。』
と言うと黒川は頷く。源蔵が、
『あの話しはどうなった?』
『あの糞アマ検事を何とかする話しだ。』
と思い出して言う。