法廷-1
『裁判長、検察側は新たな証拠を申請します。』
と桐生美鈴は大きな声で宣言する様に言うと数枚の書類と写真を裁判長に渡す。そして、被告席の大原源蔵を色白の顔を向け切れ長の目で睨む様に見ると、
『今、お渡しした証拠は大原源蔵被告自身が直接、与党幹事長山海幹雄氏に金品を渡している写真です!』
と言い放つ。傍聴席からどよめきが起こる。被告弁護士が慌てて、
『被告側は証拠の提示を事前に知らされておりません!』
『公平でない証拠の提出は無効に願います!』
と口角泡を飛ばして反論する。美鈴は、
『この写真は最近、不審な亡くなり方をされたジャーナリスト山川剣士さんの親族より譲り受けた物です。』
と説明する。山川は一ヶ月前に溺死死体で発見されたが首に不審な跡が残っており警察が調べている。
山川が大原源蔵を取材していた事は山川が所属していた週刊誌編集部全員が知っていた。
『生前、身の危険を感じていた山川さんはもしもの時の為親族に写真のネガフィルムを預けていたのです。』
と美鈴は裁判長から陪審員の席を見渡しながら話して、
『スクリーンに写せる様に準備して有ります。』
『陪審員の皆さんに見て頂きたいのですが。』
と提案する。被告弁護士が怒りを滲ませ、
『証拠は事前に被告側とも話し合い提示する決まりです。』
『我々は聞いていない!』
『それにその写真が捏造された物では無いとどうやって判るのですか!!』
と怒鳴る様に言う。美鈴は冷静に、
『証拠の事前相談には例外も設けられています。』
『写真を撮影した山川さんの不審な死を考えて下さい。』
『写真に添付した資料にアメリカの権威ある研究所から、この写真には何らかの手が加えられた事が無いとの証明書が入っています。』
と法廷中に響き渡る様に話す。陪審員達が話し合っている。陪審員筆頭の女性が、
『陪審員はその写真の表示を求めます。』
と裁判長に要求する。被告弁護士が、
『裁判長、この証拠の無効を要求します!』
『正式な手続きが踏まれていません!』
と焦った様に叫ぶ。裁判長は、
『被告側の要求を却下!』
『陪審員の要求を認めます。』
『検察側、写真を表示して下さい!』
と抑制の効いた声で話す。美鈴は頷き、横の検事に指示する。少しして、法廷の中の大型スクリーンが明るくなる。
美鈴は検事席から3、4歩進むと美鈴の170cm近い長身があらわになる。黒のスーツとスカートに身を包んだ彼女は肩口まで有る黒いストレートの髪をなびかせ、スクリーンを指し示す。
スクリーンに黒い高級車の車内で大原が幹事長に笑いながらバックを渡している写真が映る。その横には同じバックがもう1つ有り、2人共煙草を吸っている為か車の窓が開けられている。
スクリーンに写真が映るとマスコミ席から、
『おお!』
と歓声に近い声が上がる。裁判長がすかさず、静かにする様に求めた。だがざわめきは収まらない。
周りは何処かの埠頭に見える。渡しているバックは有名なブランド物だった。美鈴が合図すると写真が変わり、金融機関に入る大原と連れの男の写真で連れの男は同じブランドのバックを2つ持っている。
美鈴が合図するとスクリーンが2画面に分割され、大原が幹事長にバックを渡している写真と大原が連れの人物と金融機関に入る写真が表示される。
『2つの写真の時刻をご覧下さい。金融機関の写真と同じ日の時刻の2時間後に被告はバックを幹事長に渡しています。』
『この金融機関で1億円下ろした事は確認されています。写真の添付資料を見て下さい。』
『大原被告と金融機関にバックを2つ持って入った人物は大原被告の運転手です。』
『この運転手は、やはり一ヶ月前に溺死体で発見されており、山川さんと同じく首筋に不審な跡が見られ警察が捜査中です。』
『この現金授受の1週間後に山海議員の地元の駅の再開発事業に大原被告が会長を務める大原グループが建設業を含めての参加が決定しています。』
『検察側は、この現金授受が駅の再開発事業への大原グループ参加への見返りと見て立証して行きます。』
と大原被告を見据えて報告すると、傍聴席のざわめきは大きくなる。裁判長は木槌を叩いて、
『静粛に、静粛に!』
と大きな声で注意する。被告弁護士が、
『証拠に対する反論の為、休廷と準備の時間を要求します。』
と裁判長に向かい話す。裁判長は頷き、
『では、2週間後の審理再開とします。』
『それまで休廷!』
と木槌を1回叩き審理を終わらせる。被告弁護士は不満そうだったが引き下がる。上手く行って隣の検事とにこやかに話す美鈴を源蔵は苦々しく睨み付ける。
被告控え室に戻ると源蔵は5人の弁護士達に、
『何とかしろ!』
『お前んとこの事務所には大金払ってるんだぞ!』
『俺のグループの顧問弁護士も出来無くなるからな!』
と怒鳴り付ける。法廷で話していた1番年長の弁護士が、
『はい、事務所に戻りまして至急対策を協議して参ります。』
と逃げる様に他の弁護士達を連れ出て行く。源蔵は溜息を付くと、
『役に立たない奴らだ。』
と言い横の180cmは優に超える長身の痩せ型の男に、
『何であんな写真が出て来るんだ、黒川!』
と睨み付ける。黒川と言われた冷酷そうな男はたじろぐ様子も無く、
『申し訳有りません。』
『家族と職場は押えたのですが、それ以外の者に写真を預けた様です。』
と坦々と答える。源蔵は、
『で、どうするんだ?』
『何か手は有るのか!』
と聞く。黒川は、
『検察と取り引きするしか無いでしょう。』
と冷静に答える。