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透明な炎
【女性向け 官能小説】

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どれぐらい繋いでいたかなんか分からない。

そっと離された手の感覚にハッとすると

「行くか」

と、水槽から離れた武藤が目に入って
水中浮遊は終わりを告げた―――

どんな意図があって手をつないできたかなんか知らない。
長年同期をして来ても、プライベートを一緒に過ごす事はなかったし。
まして結婚している男の気まぐれなんか知らない。

私が知っている武藤の顔は
とびっきり仕事ができる奴。

これだけ。

それだけで十分なのに。
これ以上知りたくないのに。

優しい武藤も
デートにスマートな武藤も
趣味が同じ武藤も

何もかも知りたくない。

好きになりたくないから。
好きになっちゃいけないから。

だから、プライベートの武藤なんか知りたくもなかった。

仕事帰りにほんの少しだけ飲みに行って
軽い文句を言いながらも奢ってくれて
愚痴を聞いてくれて
それでも翌朝、出社するとすでに来ている武藤がパリッとして
仕事を始めていると私も頑張ろうって気持になった。

「優しい武藤なんか知りたくないんだってば」

「あ〜?」

小さくつぶやいたその言葉は
ほんの少し前を歩く武藤には聞き取れなかったようで。

「なに?」
と顔を近づける。
「近いって」
露骨にイヤな顔をして見せて
肩をグイッと押しやる。

私にはそれぐらいしか抵抗の技を思いつかなかった。

武藤を好きにならない抵抗を―――



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