久しぶりの休日-2
記者会見が終わっても悠子達の捜査課は忙しい日々が続いた。証拠の調査やメンバーの取り調べが山程有った。
アパートのアジトのパソコンやバックアップも無事押収出来宝の山と言うべき成果だが、その分調査・解析すべき事も膨大に増えたのだ。
もちろん強制捜査に参加した他課の捜査課も忙しく、逆に悠子達の捜査課から応援に行く位だった。
悠子も詐欺組織のメンバーの取り調べを行なったが、小栗こと神木と城田の2人は他のメンバーと違う雰囲気があった。
神木は、全ての事は自分が命じてやらせたと明言した。特に城田を庇っている様に感じた。城田も全て自分の意思でやり仲間に命令したと供述した。
2人の間には何か深い繋がりの様な物を感じる悠子だった。神木に、老人達を騙す事に良心の呵責は無いのか尋ねた。神木は全く罪悪感は無いと答え、腕を捲り上げ古い傷を見せた。その傷は腕に多数あった。
神木は体全体に有り、自分は捨て子で小さな頃に養父母に預けられたがこの傷は2人から受けた物だと言った。
周りの人達も役所も見て見ぬ振りをしていたと言い、仲間以外は敵だとはっきり言った。悠子はこの男の刑務所での矯正は無理だろうと思った。
櫻井からはメッセージは来ない。逮捕の時、送って行った山田の話だと当日はかなり挫いた足を痛そうにしていたらしい。
悠子も様子を見に行こうと思ったが逮捕直後は忙しく時間が取れなかった。毎日深夜まで仕事で帰っていつの間にか寝てる日が続いた。
捜査協力者には菓子折りを持って行くのが恒例だが悠子は行く事が出来ず、山田が進んで行ってくれた。
悠子が、
「捜査協力、ありがとうございました。」
「私が直接行って、お礼を言わないといけないのに。」
「ごめんなさい。」
「足の具合はどう?」
とメッセージを送った。暫くして、
「忙しいのは山田から聞いている。」
「気にしなくて良い、仕事頑張ってくれ。」
「足はだいぶ良くなった。心配は無用だ。」
と返事が来た。悠子は安堵しながらももう一週間も櫻井と会っておらず寂しいと素直に思った。
だが自分達の捜査課が着手した事件に他の捜査課も深夜まで仕事している。プライベートな時間を取るのは憚れた。
その後も別の事件の捜査も同時に進めていく事になり目まぐるしい日々が続く。メッセージをやり取りしてから一週間過ぎたが櫻井から新たなメッセージは来ない。
悠子は我慢出来ず櫻井にメッセージを送った。だか数日経っても返事が来ない。いつもなら遅くてもその日の内に返信があったのだ。
それから数日して再びメッセージを送るが返事が来ないのでしびれを切らし電話をして見た。するとその番号は使われていないとアナウンスされるだけだった。
悠子は驚き、狼狽える。番号を変えるにしても自分に連絡すら無いとは。怒りが湧き、次に悲しみが悠子を襲う。
【どうして‼】
【連絡も来ない上に番号変更だ何て!】
【携帯を止めたのかしら?】
【もしかして櫻井に何か遭ったのだろうか?】
と色んな事が頭をよぎる。平静を装い、山田に櫻井の事を聞いて見た。
『櫻井さんですか?』
『もう足も直り仕事もしている見たいです。』
『食べ物を持って行ってたんですけど、大丈夫だから自分の仕事に専念しろと言われて。』
『暫くしてから訪ねて見るつもりです。』
『櫻井さんのお陰で無事だったと思うので。口外出来ませんけど。』
と話してくれた。悠子は山田の言葉に頷き、
『そうよね。命の恩人だわ。』
『仕事が落ち着いたら私も訪ねて見るわ。』
と話すと山田も嬉しそうに頷く。悠子は、
【山田の話だと櫻井の身に何か遭った訳では無い様だ。】
【私に会いたく無くなったのだろうか?】
【付き合い始めた女が出来たとか?】
【でもそうなら櫻井の性格なら話すだろう。】
と思った。そして、
【直接会って櫻井の気持ちを聞こう。】
【はっきりさせたいし、助けて貰ったお礼ももう一度ちゃんと言いたい。】
と決めた。
それから2週間経ち、ようやく仕事がひと段落した。交代で休める様になり、悠子もようやく明日休みになった。
特に体調に変化が有ったからでは無いが、明日休みと言う事も有り、夜も結構遅くまでやっている産婦人科で診察を受けて見た。妊娠した形跡等は見られないとの事だった。
夫に診察結果を伝え、妊活始めたばかりだしこれからだと夫に言うと夫もこれからも2人で頑張って行こうと意欲に溢れていた。
夫に休みの事を伝えると夫は出張だと言う。悠子が残念だわと言うと折角の休みだから買い物や映画見て息抜きしたらと言ってくれた。悠子もそうしようかなと言いながら行く所は決まっていた。
出張に朝早く出掛ける夫を見送ると遅めの朝食を摂る。出掛ける服装を考えたが、
【本当に話すだけだわ。】
【向こうは女が出来たかも知れないのよ。】
【山田君にばったり会って派手な服装していたらまずいし。】
と思い、仕事用の黒のスーツに黒のスカート、ベージュのブラウスにした。時計を見て早過ぎると思い10時に出掛けようと思ったが我慢出来ず9時少し過ぎた頃には自宅を出る。
櫻井のアパートの前でタクシーを降りて二階への階段を登る。櫻井の部屋まで来るとノックをするが返事が無い。
櫻井はすぐに返事をする。少し強めにノックするも返事が返って来ない。留守の様だ、悠子はガッカリして階段の方に向かう。
反対側からこちらに若い20才前後の女性がやって来る。悠子は、このアパートは学生も居たなと思い出しながら会釈して擦れ違う。
その若い女性も会釈したが急に振り返り、
『あの、すいません。』
『もしかして、櫻井さんを訪ねて来ました?』
と聞いてくる。