後悔-1
金曜の夜、麻衣はバイト先で、余ったケーキを2つもらった。
『どうせ処分するんだから、、、早めに食べてね。』
と、言われ、もらってきた。
それを持って、麻衣は溝田のマンションに向かった。
前もって、ラインで、
『バイト先でケーキをもらったので、今から持って行きます。』
と、伝えた。
ただ、既読にはなっていない。
綾瀬駅で降り、溝田のマンションに行き、チャイムを鳴らす。
何度かチャイムを鳴らすと、扉が開いた。
上半身裸で、下はパンツのみの溝田だった。
溝田はびっくりした顔で、
『何?』
と言う。
てっきり歓迎されると思っていた麻衣は、怪訝そうな溝田の表情に驚く。
視線を下に向けると、玄関には、女性もののパンプスがある。
そして、奥からは、気怠そうな女性の声で、
『まだ〜?』
と聞こえてくる。
麻衣は、一瞬にして悟った。
麻衣は溝田にとっての、オンリーワンではなかったのである。
ケーキの入った箱を、溝田に投げつけ、駆け足で、その場を離れた。
あまりの出来事に、涙も出ない。
自宅に戻った麻衣は、ちょっと冷静に考えた。
麻衣と同い年の溝田が、あんな女性を手玉に取るようなセックスをすることが、おかしかった。
かなりの遊び人なんじゃないかと疑うべきだった。
後悔先に立たず、、、麻衣は悔やんでも悔やみきれなかった。
裕哉に会えない寂しさがあったとはいえ、あんな男に、身体を弄ばれたことが、悔しい。
性的な快楽に溺れた結果、大変なことをしてしまった。
結局は、裕哉と溝田、2人を同時に失った。
それから2週間、麻衣は家に閉じこもった。
食事は宅配や出前で済ませ、じっと家で、今までの自分の行動を振り返り、反省をした。
溝田は釈明や弁明をする気はないのだろう。
あれ以降、何も連絡がなかった。
要は、麻衣とは遊びだった、ということだろう。
麻衣は、溝田のラインをブロックした。
裕哉のラインは、まだ生きている。
もちろん、裕哉がブロックしているかもしれないが・・・。
でも、裕哉のラインをブロックする気にはなれなかった。
2週間たって、麻衣は、やっと家を出た。
麻衣は、お茶の水に行き、旅行代理店に入った。
『スウェーデンのストックホルムまでの航空券をください。帰りは、フランクフルトからで。』
裕哉と出会った時のように、行きはスウェーデンのストックホルム、帰りはドイツのフランクフルトからにした。
前回と違うのは、今回は、デンマークのスカンジナビア航空で行く、ということである。
2週間の反省期間、麻衣は、裕哉に対して、どれほど酷いことをしたか、ということを考えた。
裕哉は、遊んでいたのではない。
仕事をしていたのである。
そうやって働いて稼いでいるから、ヨーロッパに行くことが出来て、困っていた私を助けて、いろいろ出してくれたのではないか。
麻衣の結論は、自分が最低、最悪な女である、ということだった。
それで、今、自分に何が出来るか。
まだ繋がるかどうか分からないラインで、裕哉に今更連絡を取るのは、どうしても出来ない。
溝田に遊ばれていることが分かったからと言って、今更、裕哉に連絡をするなんて、人間としてあり得ないと思う。
それで、もう一度、あの時と同じルートで、ヨーロッパを回ってこよう、と思った。
それが罪滅ぼしになるとは思っていない。
ただ、自分の心にケジメをつけるつもりで、もう一度、ヨーロッパに行こうと思った。
そのため、貯金を全部下ろし、足りないかもしれないと思い、親にお金を借りた。
なぜか、借金をしてまで、行かないといけない、そんな気持ちになっていた。
出発は、5日後、成田からである。
飛行機の中、ホテルの中、いくらでも反省する時間はある。
とにかく、麻衣は、自分とゆっくり向き合いたかった。
現地のホテルはすべて日本から予約を入れた。
そして、航空券も、用意できるものは、すべて購入した。