玲奈との出会い-1
わずか1週間ちょっとの美和子との半同棲生活が、突然終わってしまい、野田は、元気がなくなっていた。
それでも、週に2〜3回、隠れ家に来て、1人のんびり過ごしている。
相変わらず、仕事は忙しく、順調である。
あれ以降、3か月近く経つが、美和子からの連絡はない。
野田は、久しぶりに、奥多摩方面にドライブに出掛けた。
奥多摩湖を見て、自宅へ戻る途中、個人経営のコンビニのような見せに立ち寄った。
飲み物を買って、停車させた車の中で、飲む。
飲み干した空き缶を、ゴミ箱に捨てに行こうとした時、女性に話しかけられた。
『すみません、白丸駅へは、どうやって行けばいいでしょうか?』
見ると、ごくごく普通の女子大生風の女の子である。
ただ、服装や持ち物など、かなりオタクな雰囲気が漂っている。
『白丸駅? たぶん、ここからだと歩いて行ける距離ではないと思いますよ。』
そう言うと、困ったような顔をする。
『私が送って行ってもいいですけど、男性の車に乗るのは不安でしょう? タクシーを呼びましょうか?』
しかし、携帯が圏外になっている。
今時、東京で、圏外になる場所があるのか、、、。
野田はコンビニ風の個人商店に入り、店のオバチャンにタクシーを呼んでもらった。
『10分ほどで来るそうですよ。』
と、野田は、その女性に告げる。
『ありがとうございます。アニメの聖地巡りをしているうち、迷子になってしまって・・』
野田はアニメには疎いので、よく分からないが、車を走らせていても、けっこう若い人を見かけた。
たぶん、アニメの影響なのだろう。
思い出したように、その女の子は、
『白丸駅まで、タクシーでいくらぐらいかかりますか?』
と、聞いてきた。
まだ若い学生みたいだから、あまり手持ちはないのだろう。
『たぶん、5,000円〜6,000円ぐらいだと思いますよ。』
と返答をする。
『あっ、厳しいかも。でも、行けるところまで行って、そこから歩きます。』
と、明るく言う。
野田は、その女性に1万円札を1枚渡し、
『これで駅まで行きなさい。』
と言う。
『いえ、そんなこと、申し訳ないので・・・』
『いいの、いいの、気にしないで。』
そう言って、野田は隠れ家の住所をメモ用紙に書いて、渡す。
ついでに、名前を書いておく。
『気が向いたら、返してくれればいいよ。』
『野田さんですね。』
と、メモ用紙を見ながら、女性が言う。
『私は、益岡玲奈と言います。城北大学の2年生です。』
と、言う。
ちょうどタクシーがやっって来た。
『気を付けて帰りなよ。』
野田は、また車を走らせる。
野田が渡した1万円は、たぶん返ってこない。
それぐらいは分かっている。
ただ、女性を釣り上げるのに、捲きエサは必要である。
1万円が書留で送り返されてきたら、それはそれで良い。
そこから仲良くなれたら、更に良い、という程度の考えであった。
その頃、玲奈は、タクシーから降り、電車に乗り換えていた。
<見ず知らずの私に1万円を渡すなんて、、、>
と、考え込んでいた。
ただ、
<男の人の車に乗るのは怖いでしょ?>
と言ってくれた。
野田という人は、信頼できると思った。