月滅剣-1
それはひとつの物語…
血と血を噤む物語…
ある一人の男…ある夜…悪夢を見る…それはすぐにただの悪夢ではないと気づく…
見知らぬ階段を登りドアを開けると…そこには地獄絵図が広がっていた
無数の自分…自分と同じ顔をした人間が笑ったり泣いたり悲しんだり喜んだり物を壊したり殺しあったりしている…まるで無邪気な子供のように…
同属嫌悪という言葉があるがこれはまるで別の話だ
男は目を覚ました。汗がびっしょりだ…誰かが呼んでいる…女の声だ…
男はまだ知らないそれが地獄からの誘いであると…
そうだもう一度寝ればいい。そうすればきっといい夢が見れるはずだ…目を閉じる
眠れない…『なんでだよ…なんで眠れないんだ』
本当はわかっているのだ目を閉じたらまた同じ映像が浮かぶ…それは夢?違う。伝えたいのだ…お前は本当は闇の使者だと…
男は諦める…(意地を張るのはやめよう。あの声を辿ればこの映像も消える
さぁなんとでもなれ!!)男は、前に聞いた女の声に耳を傾ける事にした。
『来い…お前は…』女の声だ。その時。流れ星のように光が見えた。その光が自分の家の庭のほうに落ちた。『自転車が光っている…』まるで男を欲しているように。男は自転車に恐々と触った…また、女の声がする。
『その光がお前を導いてくれる。お前はその乗り物に乗って私の後を追えばいい』
男は声の言ったように自転車をこぎだした。
見慣れた景色も夜になるとまるで違うものだ…闇…闇…闇…
そこは闇が支配する場所だ。自転車が光に道響かれてゆく…
『扉…』女が話す『誰の人生にも扉というものがある。お前が見た夢もまた扉なのだろう』
すべて見透かしているようだ
女は嬉しそうに話す。まるで仲間ができたような口ぶりだ
『もうすぐ着く』
この辺りの景色には見覚えがある。男の通っていた幼稚園である
運命か否か運命をつかさどるものはここを男の人生を左右する場所に選んだのだ
女が導いた場所は幼稚園のすぐ隣にあった。そこには見慣れた建物があった
普通のコンクリートの建物だ。『入れ』女の声がした。
『あれ?』ドアが開いてある。いつもはがんじがらめに鍵がしてあったのに
ドアを慎重に開けて男は中に入る。暗い。闇の中に闇…また闇…
階段を降りるのだが電気がついていないのと階段が濡れている事もあってうまく前に進めない
しばらく進む…見慣れた闇の姿がここにもある闇の下には闇…闇…
また進む…一段一段…慎重に…どのくらい進んだだろうか…
突然地面が無くなる。人一人分くらいだろうか、それ位の高さから落ちた男は尻餅を付く
『いたた…』突然の事なので、ある意味ジェットコースターより怖い
そこはコンクリートが一面に敷き詰められたようになっている。例えるなら柱の無い
地下の駐車場のようなものか…しばらく意識を失ったような気がした