フィル-3
不思議な男だった…。
―ハル―
あの男は、私の世界を変えてしまった。
モノクロだったはずの世界が、今では色鮮やかに輝いて見えた。
今日一日、私に残された最後の一日を、せめて精一杯生きてみよう。
そして夜はやってきた。
私に逃げ出すつもりはない。逃げ出した所で、居場所など何処にもないのだから。
遠くの方で雷鳴のような音が聞こえる。
ハルの言った様に、解放軍による攻撃が始まったのだろう。
私は身なりを整え、ベッドの上に横たわっていた。最後の刻を静かに迎える為に。
「ドン―ドンドン」
音がだんだん近くに迫ってきた。
そしてその音は城内にも響く。
この音と共に私の命も終わるのだろう。
ハルもこの城のどこかで戦っているのだろうか。出来る事ならもう一度、ハルに会いたかった。
たった数時間の刻を共にしただけだというのに、私はハルにどうしようもなく惹かれていた。
私の知らない世界を知る彼。
私に新しい世界を見せてくれた彼
私の生を望んでくれた彼。
そして、もう二度と会う事は叶わないだろう。
閉じた瞳から、涙が溢れるのを感じた。
もう遅いのだ、そう自分にいい聞かせた。
『ハル、そなたには生きて欲しい。』
私はそっと呟いた。
「俺は、お前にも生きて欲しい。」
ハルの声が聞こえた様な気がした。だが、その声は幻でも虚でもなく、ハルは確かにそこにいたのだった。
『ハル！何故ここに？！』
驚いた事に私がベッドから体を起こすと、開け放っていた窓からハルが部屋へと入ってくる所だった。
「やっぱりお前はおかしい！何故逃げなかった？！」
また会う事が出来た…。
私の瞳からは、とめどなく涙が流れた。
『今になって後悔してしまった…。ここで命尽きれば、そなたにはもう会えないと…。』
「居場所が無いなら俺がお前の居場所になってやる……。」
ハルが言った。
『……今…なんと…？』
ハルの言葉ははっきりと聞こえていた。だが私はあえて彼の言葉を聞き返した。
「フィルディアナ！もうお前は王女でもなんでもない！！只の女だ！俺と一緒にこい！」
口調こそ荒かったが、ハルの言葉はとても優しいものだった。
『………はい。』
私はハルの元へとかけ寄った。
そしてハルは私をその腕に抱きしめた。
「もうお前は何にも囚われなくていいんだ。もう只のフィルに戻れるんだ。」
『ありがとう。ハル、そなたに出会えて、本当に良かった。』
その後、国が新たな歴史を刻むのを見届け、私は国を離れた。
隣には今もハルがいる。