D高級レストラン-1
山本から連絡が入った。
日曜日のの午後8時にリーガロイヤルホテル29階レストラン「ジャンポール」を予約したそうだ。
詩織も行ったことのないような高級レストランだ。
教師の給与では縁遠い場所を指定されて少しうろたえていた。
アラフォーの魅力を引き立たせるべく体にフィットした薄生地の黒のワンピースをチョイスした。
着てみたら身体の線がはっきりと見えて少し躊躇したが今夜はお願いする立場だからと恥かしさを封印した。
夕方からバスを使い入念に全身を磨いた。
午前中に美容院へ行き若い時と同じショートボブにまとめてある。
いつもの数倍の時間をかけメイクも熟女の魅力にあふれている。
憎い相手に会うのにこの胸のときめきは何だろう。
色んないきさつがあったが夫が死んでから詩織を女として扱ったのは田代が初めてだった。
そうでないなら筆おろしを懇願したりしないだろう。
あの子は私に夢中でことの善悪が分からないのよ。
そう自分に言い聞かせた時、外でタクシーのクラクションが軽く鳴った。
立ち上がってもう一度姿見を見た時、無粋な下着の線が気になった。
もう下着を選んでいる時間はない。
詩織は思い切って下着を脱いだ。
ジャンポールには8時過ぎに着いた。
田代はすでに来ていた。
「やあ、久しぶりですね。どうしたんですか?20代の女性に見えますよ。周りの客たちが僕の方を羨ましそうな目つきで見てる。美しい女性を伴うっていうのは快感ですね。」
食事の間も詩織に対する賛美の言葉が続く。
詩織もこの後の事を考えていつもより早いペースでワインがすすむ。
田代はコーヒーを飲みながら先日の非礼を詫びた。
「今日はもうそんな失礼なことは頼みません。
だから僕の部屋でもう少しだけワインを付き合って下さい。」彼はスィートを確保していた。
広い部屋に二人きりでの静かな酒宴が続く。
豪華なソファーに腰かけ甲斐甲斐しく世話をしてくれる男の奉仕に女王の気分を味わっていた。
取り寄せたキャビアを小皿に取り分けてくれたり冷たいワインに交換してくれたりしながら彼女の後ろに立ち囁いた。
「木村先生にお願いがあります。」
「こんな場所で先生は嫌だわ。今日は詩織さんでいいわよ。」
「詩織さん。先日の様に怒ったりしないで聞いてください。筆おろしやセックスは求めません。でもどうしても詩織さんの裸が見たい。僕はまだ20歳の若造ですが美人のヌードは年齢に関係なく誰もが憧れるものです。どうか僕の願いを叶えて下さい。」
というとなんと土下座をしたのです。
詩織は驚いて「田代君やめて。頭をあげて下さい。」
「いえ詩織さんがOKと言ってくれるまで僕はこのままの姿勢で待ち続けます。」
「わかった。わかったからソファーにお戻りください。」
この子自分の優位さを分かっていない。
息子を救出するためにどんな要求をも受け入れる覚悟で来ているのに。
鬼のように思っていた田代が少し可愛く思えた瞬間でもあった。
事は山本のシナリオ通りに進んでいた。