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キョウゴ
【その他 官能小説】

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アヤノ-7

「調書を読ませてもらったんだが、包丁を手にする直前から再び意識を失うまでの間、おかしな感覚に陥ったとあったね。」
『はい。自分の体なのに、自分の体じゃないみたいで…。』
恐らく、それがダークネスによる彼女への影響だったのだろう。
「落ち着いて聞いて欲しい。…その時、君の体と意識に異変をもたらしたのは、ダークネスの麻薬成分だったんだ。つまり、彼の体液に含まれていたダークネスの成分が…、微量ではあるが、君の体に入り込んでいた。」
『……そんな…。』
彼女は信じられないという様な表情を見せた。
「信じられないかも知れないが、事実なんだ。従って、君が罪に問われる可能性は極めて低い。入り込んでしまったダークネスの成分を、体から抜く治療の為に数日は身柄を拘束されるだろうが、その後の君は自由だ。」
『そう…なんですか…。』
彼女にとって、とても辛い事実だったろう。
自分の体中に、知らぬ間に麻薬が入り込んでいたなんて、俺が考えてもゾッとする話だ。しかもその麻薬のせいで恋人を刺してしまった。
元はといえば、原因の全ては恋人の男にある様に思えるが、彼女としては悔やんでも悔やみきれないはずだ。
「辛いかい??」
俺は彼女の心の傷を探る為に、あえて尋ねた。
『…はい。』
「急にこんな話をされれば、戸惑うのも無理はないさ…。」
ここからは彼女が口を開くのを待とう、俺はそう思っていた。しかし、彼女は直ぐに言葉を口にした。
『修は…、彼は……?』
「幸い、命に別状はないよ。ただ、彼は今後犯した罪を償わなければならない。」
彼女の瞳からは再び大粒の涙が溢れ出す。
『きっと…、修はもう私を許してはくれない……。私がいなければこんな事にはならなかった……。』
彼女をその場限りの言葉で慰める事はいくらでも出来た。だが俺はそうしなかった。

―君は何も悪くないんだ。―

そんな言葉を口にした所で、彼女がそれを受け入れられるとは思わなかった。
俺は彼女に何もしてやる事が出来ない。
自分自身に強い無力感を感じた。
「彼には今後、薬物への依存を完全に断ち切る治療が待っている。長くて辛い治療になるだろう。ただ、君という存在がいなければ、治療を受けるのはもっと先になっていたかも知れない。依存期間が長引けば長引く程、治療は過酷な物になる。」
酷な話だ。事実、今回の事件が無ければ、彼が薬物依存を断ち切る時期はもっと先の事になっていただろう。しかし、それは2人を酷く傷つけ、引き離す結果になってしまった。
彼女はそれから、何も言わなかった。
そして程なくして目黒署の女性刑事が現れ、彼女の体内のダークネスを抜く為に、彼女を病院へと連れて行った。
「俺、彼女に何も言ってあげられませんでした。」
取調室に残った栄祐が言った。
「俺だって同じさ。素直な良いこだからこそ、自分を責めずにはいられないんだろう。」
「彼女、恋人が出てくるまで待つんですかね??」
もし彼女がそれを選ぶのなら、途方もなく長い時間を待つ事になるだろう。
彼女の恋人が背負う罪や、依存を断ち切る為の治療を考えれば、彼女に“待ってあげなさい”とはとても言えなかった。
「わからん。ただ、彼女がどんな決断をしたとしても、俺は全力で彼女を支えるよ。」
「あのこが、藍さんに似てるってのは本当ですか??」
「あぁ。」
俺は溜め息混じりに答えた。
「まさか、彼女に惚れてたりします?」


俺はその言葉に対しては沈黙を守った。
「俺にも煙草をくれ。」
実際、自分でも自分の気持ちがわかっていなかった。彼女を一人の女性として愛するならともかく、失ってしまった藍の身代わりとして愛するなど許されなるはずもない。
俺は栄祐から取り返した煙草に火をつけると、暫く部屋の壁や天井とのにらめっこを続けた。


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