艶之進、唸る肉刀-8
『ええいっ、毒を食らわば皿までもじゃ』
艶之進は綾乃の尻を鷲づかみにすると、瘴気を発している沼のごとき女陰へ魔羅を打ち込んだ。そして怒濤の腰振り。
「ああ〜ん、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい!」
尻を目一杯突き出して綾乃がよがる。よがりによがる。まさに色餓鬼である。艶之進は渾身の突き入れを繰り返し、ようやくのことで魔羅に快感の芽吹きを覚えた。
『よし、このまま高まり精液をぶっ放つ!』
艶之進は膣全体が激震するほど強烈に魔羅をぶち込み、それを飽くことなく繰り返した。
綾乃は淫猥な笑みを顔に貼り付けたまま、よだれを垂らし、女とは思えぬ野太いうめき声を上げ、目はほとんど白目で、全身汗みずくだった。後ろ取りの体位に移ってから立て続けに五回は逝き、愛液どころか小便を漏らし、上等な布団の下半分はぐしょ濡れ。上半分は食い込んで暴れる綾乃の爪により大きく引き裂かれていた。
この、あまりの光景に、絵師も筆を取り落とす。さらに、交接の途中で艶之進の魔羅が外れて膣口から凄まじい勢いで潮が噴出し、書き溜めた絵にしとどに降りかかったので、悲鳴を上げて廊下へとまろび出てしまった。
綾乃の寝所から三つほど部屋を隔てた自室に控えていた老女の嵯峨野は、数枚の襖を縫って聞こえる女主人の獣じみた咆吼を耳にし、呆れ返っていた。呆れ返ってはいたが、女があけすけに逝き狂う声を聞き、股間にいささかの潤いも生じていた。そして、腰高障子に心張り棒をあてがって誰も入ってこられぬようにすると、着物の裾を割り、秘所をいじり始めた。大年増(かなり年をとった女性)の嵯峨野といえど女である。魔羅くらべという昨日からの淫らな行事を目の当たりにし、今、綾乃の奔放なよがり声をさんざん聞かされては、火照る女陰をなだめないわけにはいかなかった。
しばらく手淫を続けていたが、それでは物足りなくなったか、押し入れの奥から張形(はりがた)を引っぱり出した。勃起した男根を模した性具である張形を密かに所持しているとは、厳格な容姿にふさわしからぬことだが、この時代の奥向きの女性にはままあることだった。
張形に唾液で湿しを加え、女陰へ挿入する。そして、そろりそろりと淫具を抜き差しする。しばらくすると嵯峨野の口から甘い喘ぎが漏れ、それがだんだんと大きくなってゆく。
三部屋隔てた旗本正妻のどどめ色の雄叫びと老女のよがり声が溶け合う。この下屋敷の女どもは押し並べて色狂いのようだった。
そして、一番の色狂いである綾乃は、嵌め潮を連続して撒き散らしながら凄絶な逝きを繰り返していた。艶之進は射精の一歩手前まで来ており、最後の力を振り絞って渾身の鬼突きを浴びせていた。綾乃の尻肉は衝撃で激しく波打ち、総身も甚だしく揺さぶられ、垂れた乳房は変幻自在の撓(たわ)みを見せていた。
すると、突然、大きな横揺れが起こり、柱がミシッときしんだ。女体の激震が部屋にまで伝播したのかと思ったが違った。強烈な揺れが長く続き、家鳴りが生じた。
「なゐ(地震)じゃ、これはいかん!」
艶之進は慌てて跳ね起き、勃起したままの魔羅が粘っこい糸を引いて女陰からすっぽ抜けた。
「綾乃様、危のうござる。疾(と)く部屋の隅へ!」
艶之進の叫びが家鳴りの中響いたが、綾乃は苛烈な絶頂の真っ只中で完全な白目となっていた。天災など全く埒外。
激しい揺れは収まらず、燭台が倒れて蝋燭の火が布団に燃え移りそうになった。艶之進は脱いであった自分の着物で火をはたき、消し止めたが、絵馬が落ち、鏡台の鏡が外れて割れ、箪笥が倒れるほどに傾いたので、失神状態の綾乃を部屋の外へ引きずり出し、煤(すす)の付いた着物を羽織ると暗い廊下を駆けた。途中で誰かとぶつかりそうになる。目をこらして見ると、自室から這い出てきた嵯峨野だった。
「老女どの、大丈夫でござるか?!」
艶之進の声が聞こえたはずだが、激震に動揺した嵯峨野はむくりと立ち上がると、そのまま向こうへ駆け去った。その際、彼女から何かが転げ落ちたが、それが張形であることは暗がりのため判別出来なかった。
艶之進もここから外へ逃げ出そうとしたが、ふと思い直して老女の部屋に置いてある文箱を抱えてから疾駆した。
明かりのない廊下は倒れた障子や戸板があり、非常に走りにくかったが、何とか庭へ出ると、艶之進は屋敷の外に通じる門を捜した。しかし闇の中では見えない。大地の揺れはまだ続いている。ふと、視界の端に明るさを感じた。その方向に目を転じると、火の手が上がっていた。綾乃の寝所のあるあたりだ。蝋燭は処理したはずだが消え残っているものがあったか……。あそこには淫らに昏倒した綾乃がいる。艶之進は助けようと一歩踏み出した。が、侍たちの声がわらわらと沸き起こり、三々五々「奥様ぁ、ご無事でございまするかー!」という叫びが近づいてきたので、救出は彼らに任せることにした。
艶之進は庭を抜け、狭い塀の間を駆けていたが、一向に出口らしき所へは出なかった。
それでも暗闇の中、右往左往していると、突然何かに足を引っかけて転んだ。
「きゃっ」という女の短い叫びが上がった。
「あいすまぬ!」
かがみ込んでいた女性にぶつかったようで、艶之進は慌てて謝った。
「いいえ、こちらこそ申し訳ござりませぬ!」
緊迫した中に涼やかさ内包する声。聞き覚えがあった。
「凜……どの?」
「……艶之進様?」
暗がりの中、互いの顔は見えなかったが二人とも相手を認め合った。地面はまだわずかに揺れているようだった。
「怪我はないか?」
「ええ、おかげさまで」
するとすぐ横でドスンッという重い音がした。凜が艶之進にしがみつく。揺れに耐えていた石灯籠が今、崩れた音だった。
「ここにいては危ない。屋敷の出口を知らぬか、凜どの」