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【学園物 恋愛小説】

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想[5]-1

「主里、顔赤いよ。大丈夫?」
未宇が私を心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫!」
嘘。本当は熱がある。昨日あんなに濡れたから当然か。朝から頭が痛くて、熱を計ったら37度を越していた。でも、これぐらいなら何ともないと思い学校に来たがどうも悪化したらしい。朝よりも頭はガンガンするし、視点は定まらないし、苦しいしで最悪。
「本当に?無理してない?」
「うん、平気。それにホラ、あと一時間で帰れるし」
「暁寿が迎えにくるもんねぇ」
「まぁね」
私は笑った。
…ちゃんと笑えてただろうか。未宇の様子だといつもと変わらない笑顔らしいことが分かった。
「あ、未宇。名屋君に彼女いるって知ってた?」
「うん、知ってた」
あっけらかんとして答える未宇。
そういうこと、何で独り占めするかなぁ…。
「付き合って1年ぐらいなるんじゃないの?」
「…何で教えてくんなかったの…」
私は急に気が抜けてそのまま机に突っ伏した。
「知ってると思って…主里ぃ〜ごめーん」
私の背中がパシパシ叩かれた。未宇の困った顔が目に浮かぶ。
「わかった、わかった」
顔を上げずに答える。すると、丁度6時間目を知らせるチャイムが鳴った。それと同時に教科担当の先生が入って来て皆が自分の席に戻る、音がする。未宇が座っていた辺りからも椅子を引く音がして
「早く機嫌治してね」
という言葉が降ってきた。私は顔を埋めたまま頷き、暫らくしてからゆっくり顔を上げた。
「安達さん、具合でも悪いの?」
顔を上げた時たまたま目が合った。黒板を背にした先生は私に言った。気持ちも何もこもっていないただ上辺だけの言葉。
「いえ、大丈夫です」
私がそう答えると「そう」と軽く頷き、先生は教科書を開くよう生徒達に指示した。
1時間がこんなに長いとは思わなかった。ぼうっと授業を受ける私の頭の片隅で「名屋君といた1時間は早かったなぁ」なんて思っていた。


やっと授業が終わり私はフラつく足取りで玄関で暁寿を待った。例によって、未宇は私を思いっきり心配した後、あの白い車で帰っていった。
空を見上げる気力もない。私は、ただひたすらに自分の意識が途絶えないよう柱に寄り掛かり、暁寿が来るはずの校門を見つめた。
見慣れた色の自転車が停まった。逆光で暗くなっていたが、それにまたがる見慣れた人影。
「あ…き…ひさ…」
私は無心で歩いていった。暁寿しか見えない。暁寿しか見ちゃいけない。
暁寿は私に向かって走ってきた。
「主里?足取り覚束なくなってんじゃん…」
「うん…風邪引いた…」
私は心配掛けまいと精一杯笑顔を作った。
だけど、暁寿の顔は険しいまんま。すっと私の額と前髪の間に暁寿の手が滑りこんだ。
「すっげぇ熱ぃ。何でこんなになるまで放っておいたんだ?」
「大事な授業があったから…」
ごめん、暁寿…。本当の理由は言えない。本当はね…本当は……私が風邪引いたなんて知ったら、名屋君が怒りそうだったから…。
「早く家帰るぞ」
暁寿は私を支えるように肩を抱くとゆっくりと歩き始めた。


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