陽は落ちた……-1
次の日の朝。
昨夜の惨劇など知る由もないかずさは、いつもと変わらぬ気分で出社した。
社内は明るく、今日も有意義な一日を送れそう……いつも通りに挨拶を交わし、いつも通りに自分のデスクに座る……いや、何かが違っている……。
(あれ……新庄さんは?)
いつもなら真っ先に挨拶しに駆け寄ってくる由芽の姿が無い。
八時半になり朝礼が始まっても、事務室に入って来ない。
『奥村チーフ、新庄さんはどうしたんだ?』
朝礼が終わり、前田センター長がかずさの側に来た。
どうやら無断欠勤をしているようである。
『電話も無しに遅刻はマズいね。ちょっと電話して聞いてみてくれないか?』
「は、はい。私から掛けてみます」
かずさは少し呆れていた。
仕事が上手くいっているからと、緊張感が欠けているのでは……そう思っていた。
『今日も痴漢を捕まえたのかな?ハッハッハ』
センター長も事を深刻には捉えてはいなかった。
最近の新入社員の中には、上司にLINEで欠勤を伝えて奴も居る。
無断欠勤も、そんなに珍しくはなかったのだ。
(全く……無断欠勤を三回したらクビって分かってるのかしら?)
かずさは玄関まで出てスマホから掛けた。
いつも通りのお調子者の態度だったらキツく叱ってやろう。
万が一、痴漢逮捕なんて事だったら、やはり同じく叱ってやろう。
警察官でもない一般人が出過ぎた真似をして得意がるのは、どう考えても危険だからだ。
{お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか……}
何故か繋がらない。
由芽の生活圏で電波が届かないなどあり得ないし、バッテリー残量を気にしない訳はない。
{お掛けになった電話は……}
何度掛けても無機質な声が流れるだけ。
何か嫌な予感がしたが、もう業務は始まっているのだ。
先ずはセンター長に報告し、そこから指示を仰ぐ….…今日は溜まっている書類整理などのデスクワークを熟し、時間をみて由芽に電話を入れる……という指示を受けた。