真奈美の男たち-4
いざ、着替えを始めると、
それなりの準備をしてくるようにと言っていた征爾の顔が浮かんでくる。。
もちろん、それが服装のことでないことくらいはわかっていた。
シャワーを浴びていく方がいいのか、汗ばんだ身体のまま訪ねるのがいいのか、
従いは清楚なものがいいのか派手目のものがいいのか、
場合によっては拘束具をしたまま訪ねるべき相手もいる。
訪ねる相手の性癖や好みによっては準備と言うものは全く異なるのだ。
しかも、実は、それなりの、と言うのがとても難しい。
もちろん、その場に征爾はいないわけだが、
当然、麗子たちの口から、今日の香澄の準備はもちろん、
その反応や様子は征爾の耳に入るのは間違いない。
恋愛感情とは別ではあるが、
やはり征爾には、期待通りの女と思われたい。
異性の評価というものはいくつになっても、相手が誰であっても気になるものなのだ。
迷いに迷った香澄がようやく着替え終えたころ、家のインターフォンが鳴った。
征爾たちだった。
「突然、お邪魔することになって申し訳ありません。」
「いえいえ、思いがけずにいらしていただけるなんて光栄です。
それに、真奈美の喜びようったらありませんでしたから。
ほら、真奈美。とし君たち、来てくれたよ。」
「……。」
玄関でのやり取りが香澄にも聞こえてきたが、真奈美の反応は聞こえない。
うれしすぎて言葉も出ないと言ったところなのだろうか。
香澄はもう一度鏡を覗き込み、改めて寝室全体を見回した。
(大丈夫。これなら征爾さんたちが使っても恥ずかしくないわ。)
香澄は荷物を持って部屋を出、玄関へと向かった。
「いらっしゃいませ。」
「ああ、香澄さん。すみません。予定よりも早く伺ってしまいました。」
「いえ。こちらこそ。片付けやら準備やらに手間取って、まだ出発できていません。
麗子さんたちをお待たせしてしまうわ。」
「いやいや、気にしないでください。麗子も結構バタバタしていましたから。
で、準備は出来ましたか?」
「ええ。ふさわしいものになったかどうかはわかりませんが、
自分なりに考えてみました。」
「大丈夫。香澄さんらしければそれが一番です。あ、もう行かれますね。」
「はい。では、遅くなりましたが今からお邪魔させていただきます。」
香澄は真奈美と雅和に声をかけ、家の門を出た。
よく考えると、こういう形での外出は初めてだった。
夫がすべてを了解しているにもかかわらず、どことなく後ろめたい思いがするのは、
もしかしたら新しい男性との出会いが待っている可能性があるせいかもしれなかった。
そう言えば、征爾は鈴木家に待ち受けているはずの準備については何も言わなかった。
電話で言っていた男性が準備できなかったのか、
それとも夫の耳を気にして敢えて何も言わなかったのか。
期待し過ぎでがっかりすることのないよう、香澄は自分を戒めた。
訪ねて行って、香澄を迎えるのが麗子たちだけと知ってがっかりしては、
麗子たちにも申し訳ない。
新たな男性との出会いは、自分の中でも運のいいサプライズとして喜べばいい。
そうだ、麗子とのレズプレイ。前回の双頭バイブだってかなりのものだった。
そうか、あれ以上のものがわたしを待っているのかもしれない。
そうだ。そうだった。香澄を喜ばせてくれるのは人ばかりではなかったのだ。
新しい道具が香澄を待ち受けているのかもしれない。
そう考えると、香澄の足取りは自然と軽くなった。
(そうよ。そうに違いない。もっと刺激的な道具がわたしを待っているんだわ。)
話は少しさかのぼる。
香澄が征爾に連絡を取る前に、実は雅和はすでに征爾に連絡をしていたのだ。
真奈美と男女の関係になったということを報告するためである。
実は、それも真奈美の治療の一環だったのだ。
征爾は、真奈美に催眠療法を施し、
言ってみれば真奈美の脳の暴走を事前に防ごうと考えたのだ。
真奈美の行動で一番心配なのセックスに対するハードルの低さだった。
それと同時に、性的なことに関するハードルも低くなってきた。
つまり、性行為と排せつ行為の同一化である。
もともと幼児期にはよくあることなのだが、
真奈美の場合は脳腫瘍が大きくなり、まわりの組織を圧迫することによって、
その判断を司る部分が十分に機能していないことが考えられた。
強い催眠をかけることによって真奈美の行動を制限してしまうことも可能だった。
一番簡単な方法としてはセックスそのものを禁じてしまうのだ。
ただ、それには大きな副作用が考えられた。
真奈美はかつて、敏明を治療している最中に、治療に集中するあまり、
自分の欲求を二の次に考えたことで、
自分の性欲が満たされないというストレスによって体調を崩した。
体調だけではない。もう少しで精神をも病みそうになったことがあるのだ。
真奈美にとっては、セックス体験があまりにも早く、
そしてあまりにも高密度でセックス体験を積み重ねてきたことで、
今やセックスはある意味生活と切り離せないものとなっていたのだ。
そうした理由から、真奈美にセックスを禁ずることはできない。
ではどうすれば真奈美が周囲から奇異の目で見られることなく、
性に関わる問題を乗り越えていけるだろうか。
征爾は雅和と相談の結果、次のような手段をとることを決めた。
まずは、性に関わる全ての行為を一度解放することだった。
そして真奈美が興味を持った行為を一度だけ無制限に経験させる。
そしてその行為に関して、父親である雅和とともに作った基準に照らし合わせ、
その基準に当てはまらない行為やあまりにも奇異な行為に関しては、
征爾が一つ一つ、この行為はNGであるということを、
催眠状態の真奈美に伝えていくのだ。