真奈美の男たち-3
「あ、そうそう。さっき、敏明君から電話があったわ。」
「とし君から?」
「ええ。まだ寝てますって言ったら、じゃあうまくいったんですねって。」
「え〜?お母さん、そんなこと言ったの〜?」
「違うわよ。お母さんはまだ寝てますって言っただけ。
そしたら、とし君がよかったよかった、って。
紗理奈さんも電話の向こうで喜んでくれてたわ。」
「なんか、しっかりバレてるじゃん。」
「だって、いよいよだって、連絡はしたんでしょ?」
「あ、そうだった。」
「で、昼過ぎに伺いますって。」
「誰が?」
「敏明君たち。」
香澄は真奈美と夫に征爾との電話の大まかな内容を伝えた。
「で、香澄はどうするんだい?」
「わたしはあちらにお邪魔して、女性たちだけの時間を楽しむ予定よ。」
夫の問いかけに、香澄は少しのウソをついた。
征爾の話では、香澄の欲求不満を解消すべく、
それなりの準備をしてくれるという。
何人くらいと聞かれたのは、明らかに男性の数だろう。
もちろん、夫に言ったように、女性たちだけで楽しむことだって十分に考えられた。
麗子はもちろん、紗理奈と美奈子も、母親譲りのテクニックを持っているはずだ。
女性4人で終わりのない快楽を追及することになるかもしれなかった。
それならそれでいい。
それに、たとえ征爾が香澄のために男性を用意してくれようとしても、
今朝の話が昼過ぎに、そう完璧に実現できるとも思えなかった。
香澄が知る限り、鈴木家に関わる男性は、家族以外には潤一一人だけだ。
その潤一は征爾たちと一緒に我が家に来るのだ。
もちろん、征爾は香澄が知らないような、
多くの男性とのつながりをそれなりには持ってはいるだろう。
ただ、朝、連絡を入れて、その日の昼には征爾の家を訪れることのできる男性、
そしてそこにいる初対面の女性を抱くことのできるような男性が、
征爾の知り合いに多くいることは、さすがに想像できなかった。
女性たちだけで楽しむことになるのか、
それとも新しい男性との出会いが待ち受けているのか、
いずれにしても、夫には帰宅してから報告すればいい。
香澄はそんな思いだった。
一方、真奈美は喜びを全身で表現していた。
「わ〜い、わ〜い。とし君がおうちに来てくれるって〜。どうしよう、どうしよう。」
「真奈美、落ち着きなさい。とにかく、今は朝ごはんを食べないと。」
「そうだった。腹が減ってはセックスは出来ぬ、と昔から言うじゃありませぬか。」
「戦だけどな。まあ、真奈美にとっては同じようなもんか。」
「違うよ。戦は死んじゃうかもしれないから怖いけれど、
セックスは死んじゃうくらい気持ちいいから楽しみなんだよ。」
「やだ、真奈美ちゃんったら、若者らしくないっていうか、ベテランのセリフね。」
「で、お母さんは、今夜はお泊りなの?」
「ええ、そのつもりで来てくださいって言われてるから。」
「えっ?ってことは、とし君たちも真奈美のおうちにお泊りってことになるよねえ。」
「ええ。そのつもりでいらっしゃると思うわ。」
「わ〜い。わ〜い。どうしよう。とし君とお泊りなんて小学校の体験学習以来だ〜。」
そうだった。
敏明は小4であの特異な症状が出てから5年間、学校の宿泊行事はもちろんのこと、
ほとんど出席さえできていなかったのだから。
真奈美の興奮が治まらないままの朝食がようやく終わり、香澄は部屋の掃除を始めた。
征爾たちが使うのは、恐らくはリビングと夫婦の寝室。
泊まるとなれば真奈美の部屋も使うだろうか。
当然トイレも使うだろうし、泊りともなればお風呂にも入るだろう。
そう考えただけで、香澄は目がくらみそうだった。
時計を見ると、すでに9時を回っている。
鈴木家を訪れるのに、征爾はそれなりの準備をして来るように、と香澄に言った。
どんな準備が必要なのかはまだ思いつきもしなかったが、
その時間も含めれば掃除に当てられる時間には限りがあった。
「あなた。真奈美ちゃん。」
香澄は部屋に戻ってしまった二人を呼びつけ、掃除の分担を命じた。
「え〜?お掃除?真奈美のお部屋だけでいいの?」
「ううん。それだけじゃないわ。真奈美ちゃんはお風呂もお願い。」
「ボクはとりあえず、寝室かな。」
「ううん。おトイレもお願いします。わたしはリビングやらキッチンやら。
とにかくわたしは準備もあるから、11時には全てを終えたいの。
それができないようなら、今日の午後の予定は電話して中止にしてもらうから。」
掃除が終わらなければ予定はキャンセルと言われ、
真奈美は自分の部屋へ、雅和は寝室へ、大急ぎで走った。
香澄は高まる胸のときめきを抑えつつ、キッチンの水回りの掃除にかかった。
いくら突然の来訪とはいえ、香澄にも主婦としてのプライドがある。
汚れた部屋のままで来客を迎えたくはなかった。
しかもその客は征爾なのだ。
征爾に対しては、セックスだけの女と思われたくないような気持ちもどこかにあった。
征爾の身体の虜になったことは間違いなかったが、
香澄は精神面においてもかなりのパーセンテージを征爾にとられていた。
ついつい念入りに、そして気になる場所も増えたことで、
一通り香澄が掃除を終えた時にはもう12時を少し回っていた。
食事については、
今後どちらの家で集まるにしても、
双方ともデリバリーで済ませようと、この前、麗子と決めておいた。
(食事の心配はしなくていい、と。でも、飲み物とかそういうものは必要だわ。)
香澄は時計とにらめっこをしながら冷蔵庫の中身を確認してから着替えにかかった。