狂宴の終わり〜新たなる始まり-3
1時間後、征爾と雅和はベッドに横になり、寝息を立てている真奈美の顔を見ていた。
「精密検査をしてみなければ確かなことは言えませんが、恐らくは……。」
「命に別状はないのですね?」
「今のところは、です。」
「今のところ……。」
「はい。真奈美ちゃんの脳腫瘍が少しずつ大きくなっていること、
これは残念ながら紛れもない事実です。
脳と一体化しているので、ある程度の年齢まではやむを得ないことだと思います。
その拡大した部分が、恐らく真奈美ちゃんの脳の一部を圧迫し、
理性と言うか、判断力と言うか、そういったものの狂わせているのだと思います。」
「それで、あんな反応を……。」
「紗理奈の話では、真奈美ちゃんは以前、
おしっこを我慢し続けて出せた時の快感を、
やっと絶頂に達することのできた時の快感に喩えていたそうです。
おしっこを我慢して解放された時の快感と、排便した時の快感。
真奈美ちゃんはそのあたりに共通点を見出して、
敏明に排便の様子を見させろと迫ったのでしょう。」
「しかし、普通のセックスならばともかく、そういった分野まで真奈美が……。」
「いや、そうした快感に囚われることは、幼少期にはよくあることですし、
大人になってからもそうしたものにこだわる人は男女に限らずいます。
便秘症の女性の中には、少なからずそうした快感を求めている人がいるはずです。」
「確かに聞いたことはありますし、排せつした時の感覚は、
射精のような開放感があるのはわたしでもわかりますから。」
「ただ、わたしが気になるのは、これからのことです。
真奈美ちゃんも4月からは高校生。学校にいる時や友達と過ごしている時に、
こうした症状がさらに強く出た場合、周りがどう受け止めるか。」
「変態……。少なくとも、頭がおかしい子、と思われるでしょうね。」
「性癖は変態とは別なのですが、世間的には同一視する傾向がありますからね。」
「おかしな子扱いをされる、と言うことですね。」
「いや、それよりも怖いのは、
そうした真奈美ちゃんの弱みに付け込むような輩が周りに増えていくことです。」
「真奈美を弄んだり食い物にしたりするやつが出てくるということですね。」
「雅和さん。あなた自身、予想されていたこと、のようですね。」
「ええ。真奈美の頭の弱さに付け込んでそういう時がくるかもしれない、と。」
「そこでご相談なのですが……。」
「まだ何か打つ手はありますか?」
「先ほども申し上げたように、専門の病院での脳の精密検査がまずは第一歩。」
「しかし、恐らく手術などは不可能、という結論に変わりはない。」
「はい。正直に申し上げればそこは変わらないと思います。ただ、対症療法はある。」
「対症療法、ですか?」
「はい。腫瘍そのものを取り除くことは不可能でも、
その圧迫を抑えたり和らげたりすることは可能です。
それから、わたしが研究している催眠療法を取り入れれば、
真奈美ちゃんの欲求を他のものに転嫁することができるかもしれない。」
「他のものに?」
「ええ。他人が見たり聞いたりしても異常と思わないような欲求に、
転嫁することは可能と思われます。」
「そんなことが可能なのですか?}
「人間、普通に生きていて、全ての欲求が満たされるわけではありません。
代償、あるいは昇華という言葉を聞いたことはないですか?」
「学生時代に、心理学か何かで……。」
「そうです。それです。人間は欲求が満たされないというストレスから心を守るため、
他のもので代用したり、欲求そのものをわすれるようにする行動をとる。」
「真奈美の排せつに対する欲求も、そうしたものに変えることができると?」
「可能性は大いにあります。真奈美ちゃんは考え深い。発想も豊かです。
ちょっとしたヒントやきっかけを与えてあげれば、
真奈美ちゃん自身で代償ができるかもしれない。」
「征爾さん。」
「雅和さん。頑張りましょう。
香澄さんには、敏明のケアに、時々通ってもらうことが必要だと伝えます。
今までのように頻繁でなくてもいい。月に1,2度、真奈美ちゃんに暗示をかける、
そんな感じの治療をしていきませんか?」
「よろしくお願いします。あ、香澄には、このことは……。」
「ええ。わたしも、香澄さんには知らせない方がいいと思います。
香澄さんはようやく吹っ切ることができたんですから、
真奈美さんにとっても、元気で明るいお母様の方がいいと思いますから。
時にはわたしもお相手させていただきますが、構いませんか?}
「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「5年前に、敏明の治療のことでお願いしましたが、今回は立場が逆になりました。
真奈美ちゃんが敏明に、そしてわたしたち家族にしてくれたことに負けないよう、
真奈美ちゃんのために、精一杯させてもらいます。」
「よろしくお願いします。」
「
「ところで、今日はどうなさいますか?
真奈美ちゃんはもう少しこのまま寝かせておいてあげるとして……。
奥様……。香澄さんは、恐らく終わりのない行為に突入していると思いますよ。
麗子と香澄さん、身体はもちろん、性格的にも相性がピッタリのようです。」
「それは性的に、ですか?」
「ええ。もちろん。まともに戦ったらわたしたち二人でも太刀打ちできません。」
「だとすると、潤一君が一人で相手していることがいささか不安ですが。」
「いや、大丈夫でしょう。
彼が頑張れなくても、それを補って余りあるものを用意してありますから。」
「潤一君の若さを補っても余りあるもの、ですか?」
「ええ。興味がおありでしたら、いつでもご紹介しますよ。」
「ええ。真奈美が落ち着いたら。ぜひ。」