投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ある復員兵の夏
【寝とり/寝取られ 官能小説】

ある復員兵の夏の最初へ ある復員兵の夏 0 ある復員兵の夏 2 ある復員兵の夏の最後へ

ある復員兵の夏-1

 昭和二十一年、八月。
 長い戦争を経てすっかり変わり果てた大地に、ぎらぎら眩しい夏の陽差しが容赦のない追い討ちをかけていた。
「何て、こった……」
 絞り出すような声で呟きながら、石ころだらけの道をのろのろと、まとわりつく陽炎を押しのけるように歩くのは復員兵、長浜正一(ながはましょういち)。
 上背のある骨太な身体はどうしようもないほどに痩せこけ、全身を包む軍服は見る影もなく薄汚れている。
「っ……」
 歩を進める正一の顔が、苦痛に歪んだ。
 服の下に隠れているのは、手当ても満足になされなかった数ヶ所の怪我。
 ここ数年、状態としてはまさに不潔不衛生の極みであったため、おそらく病気の一つ二つは当たり前に巣食っていることだろう。
 悲惨。
 今の正一の状態を表すのに、どうやらそれ以上の言葉は見つかりそうになかった。
「圭子(けいこ)……隆男(たかお)……」
 正一は無精ひげを揺らすと、かさかさに荒れた唇から呻きのような声を漏らした。
 愛する妻と息子に、生きて再び会いたい。いや、会ってみせる。
 それは正一にとってどんな戦闘よりも、どんな命令よりも大事なことであった。己に課した使命を実現する。ただそのためだけに、正一はあらゆる苦難を乗り越えて、ようやくここまで帰ってきたのだ。
「多分、この辺だと思うんだが……」
 正一は落ち窪んだ目を気怠そうに動かし、周囲を見回した。
 自宅が近いのは大体分かったが、何しろ辺りの景色が一変していて目印になりそうなものがまるで見当たらない。
「あ、あれぇ?」
「え?」
 背後で不意にあがった素っ頓狂な声に、正一は反射的に振り返った。


ある復員兵の夏の最初へ ある復員兵の夏 0 ある復員兵の夏 2 ある復員兵の夏の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前