想[4]-3
ふとキャンパスの色が白く変わった。
驚いて振り向くと、名屋君が私の頭上に白い花を咲かせていた。
「な…や君?」
「何かおもしろいものでもあった?」
低い声でそう言うと、名屋君は眉をしかめた。
「風邪引きてぇの?」
「まさか。でも傘無いから…」
要領悪いよね、と私は笑った。その瞬間、名屋君の平手がベシッと私の脳天に落ちた。
「いったぁ…!」
「馬鹿もの。笑い事じゃねぇよ」
名屋君は私の手首を強引に掴み、その白い傘を握らせた。捕まれた手首が熱く火照る…。
「な…え?何?困るよ」
「使え!」
「何で怒ってるの!?」
「いいから使え!!」
名屋君は私に背を向けた。
「名屋君はどうすんのっ!?」
「俺?」
名屋君は振り向くと親指でその人を差した。
「アレあるから」
そこには、淡いピンク色の傘をさした同い年ぐらいの女の子が立っていた。セーラー服だから他校の子。
「じゃあ」
名屋君は走ってその女の子の傘の下に潜り込むと、二人で私と反対方向に歩いていってしまった。
家までの道程を全く覚えていない。気付くと自分の部屋でぼーっと立ち尽くし、その周りには私の髪から滴る水がぽたぽた落ちていた。手にはあの白い傘が握られている。前髪から頬を伝いまた一粒、ぽたんと落ちた。
「彼女がいて当たり前だよね」
私の声は不気味なほど明るく、ざっと鳥肌がたった。
「さすが名屋君の彼女なだけあって可愛いかったなぁ!」
また、水滴がフローリングの床に吸い込まれるように落ちていく。
「私には暁寿がいるじゃん!」
ぽたん。
「やっぱり暁寿しかいない!暁寿が大好き!!」
私自身のものじゃないような明るい声。また、雫が頬を流れていった。
―30分前―
「鋼吾…あの子?」
「うん」
「小さかった…」
「お前よりはでけぇよ」
「そう?鋼吾といると皆小さく見える」
「そうか…?…なぁ、優衣…別れよう…」
「……そう…だね、うん…いいよ…」
「今までありがとう。じゃあな…」
「ばいばい、鋼吾…」