奪還-10
若菜がこの風俗店突入で一番気を使ったのは爆発だ。過去の経験から爆発処理班を同行させ対応した。そして店員を全て確保し帝東との関係を確認し携帯電話を取り上げると、帝東組に張っている渡嘉敷に連絡する。
「不明の5人は保護しました。後は派手にやっちゃって下さい。」
「了解です。」
予め若菜の指示で、組を騙して金を強奪していた清水の悪行の情報を流していた為、いきりたった複数の組の組員が続々と帝東組の事務所に集結する。
「渡嘉敷さんよぅ、一体これはどーゆー事なんだよ?あの話は本当なのかよ?」
警察の不祥事に怒りを露わにする組員達。
「まだ調べがついてないから分からない。事実だとすれば正式に謝罪しなきゃならないと思ってる。ここは協力してくれ。清水を逃す訳にはいかないんだ。」
頭を下げる渡嘉敷。
「…、渡嘉敷さんがそう言うならこっちも協力するが、またお得意の隠蔽とかしたら、そん時はタダじゃ済まないぜ?」
「今の警視総監は、そんな事を許すような人じゃないから大丈夫だ。」
「上原若菜か…。」
「じきこっちに来る。」
「え?マジか!?ここに来るのか!?」
「ああ。彼女が先頭に立ってこの麻薬がらみの事件を追ってる。」
「マジか!!し、しまった。もっとお洒落してくれば良かった…」
若菜が来ると知り、組員らは騒つく。何を隠そう若菜はその生き様から組員達からも崇められている存在だからだ。むしろ若菜にいいトコを見せようと張り切っているようにも見えた。
「みんな、協力して警視総監様に褒めて貰おうぜ!!」
「おう!!」
組員らは上原若菜の名の下に一致団結した。
(上原さんは一体どんだけのファンを持ってるんだかな。)
渡嘉敷は可笑しくて笑ってしまった。そして全員の鋭い眼差しが帝東組の事務所に向けられた。帝東には清水の背信行為の話をまだ流していない。事務所の外の異変に帝東組の組員らは気付いていた。
「何やら表が騒がしいなぁ。」
監視カメラを睨みつけるのは帝東組組長の八坂晃嗣だ。ただならぬ雰囲気に討ち入りかと組員も臨戦態勢を整える。しかし無闇に襲撃して来そうな雰囲気ではないのを察した八坂。
「下田、様子を見て来い。」
「はっ!」
下田もそんな雰囲気を察して相手を刺激しないよう武器は持たずに階段を降りて行った。
(マズイな…、バレたか…)
この状況をどう切り抜けるかと怯えているのは清水らであった。こんなに早く追い詰められるとは思っていなかったからだ。
(あの女どもを使っていい思いさせてやれば何とかなるか…。八坂は女好きの単細胞だからな!)
大の女好きの八坂に拉致した女性警察官らを使い喜ばせて切り抜けようと考えた。所詮そんな安易な考えしか出来ないから悪行が隠せないのだと言う事に清水は気付いてはいなかった。