小心者の企て-2
(何で…?何であの女がまた同じ車両に居るんだ?)
(ボクら見張られてるのか?まさか……まさかな…ッ)
吊革に掴まったまま俯く二人は、嫌な汗を掻きながら思案を巡らせる。
運行のダイヤは何本もあるし、車両だって何両もある。
なのに何故、あの女とまた同じ車両で出会すのか佐藤も高橋も不思議だった。
やはり私服警官か?
いや、そんな筈はない。
もしそうならば不測の事態に備えて二人一組で行動するはずだ。
昨日だって事が起きた℃栫A誰かを呼んだ訳ではない。
乗客の助けを借りて桜庭を警察官に突き出したではないか。
(早く降りろよ!これじゃあ何も出来ないじゃないか!)
(邪魔な女だなあ。余計な正義感を振り翳す女って大っ嫌いなんだよぉ)
実に犯罪者らしい逆恨みの感情を抱く二人……「痴漢行為を許さない」という当たり前の行動をとっただけの女性にさえ怯む肝っ玉の小ささが、より彼女への憎悪を膨らませる……。
高橋は佐藤の腕を小突き、二人は車両の隅っこに移動した。
あの小さな女性は人垣に埋もれ、ピョン!と飛び出たポニーテールだけが二人から見えている。
『あのさ、鈴木達にアイツを……どう?』
『……悪くないね。いや、イイねえ』
桜庭が言っていた『俺達がターゲットに選んだ女を狩ったら……』の言葉を実行するのだ。
あの女の存在がある限り、二人は落ち着いて痴漢行為を楽しめない。
腕に多少は覚えがあったか知らないが、大の男に楯突く生意気な女に《オトシマエ》をつけさせてやらねば気が済まない。
……それにしても情けない男共である。
そこまでの強気な考えに至っておきながら、結局は当人達だけで何とかしようとはならない。
相変わらずセコい奴等は視界の隅に彼女を捉えつつ、何食わぬ顔をして見張り続ける。
{次は〇〇駅〜。降り口は左側です……}
恐怖の対象を《獲物》として認識を改めた二人は、跡をつけて同じ駅に降り、尾行を始めた。
さっそく鈴木達とコンタクトを取り、ターゲットの移動箇所を逐一報告して連絡を密にする。
それは痴漢の対象を選ぶ時よりも遥かに強い高揚感に溢れていた……。