アナルヴァージン喪失 (2) / 設定小ネタ:ゆきの浮気まとめ-1
# 五十七 アナルヴァージン喪失(二)
クリスマスも終わった、ある日の朝――。
私もゆきも今日から早めの冬休みに入り、すっかり年末気分である。
「じゃあねパパ、いってきます」
Fとの四度目のデートに出かける妻が、玄関でキスを求めてきた。いまだ「夫婦のセックスおあずけ」が継続する中、不倫相手を優先する背徳感と夫への嗜虐心がないまぜになった、いたずらっぽい笑みを浮かべている。
「ゆきぜったい楽しんでるよね、今の状況」
「うふふ。楽しくなくはないかな?」
膝丈のスカートにロングブーツをあわせ、ニットの上にロングコートを羽織っている妻。慎ましくも女性らしさを感じさせるデート仕様メイクのゆきは、せいぜい二十代後半にしか見えない。口紅を塗った唇は、しっとりと色っぽい。
「ゆきとエッチしたくて悶えてるパパ、可愛いんだもん」
「悶てるだけじゃないよ。ほら」
パンパンに膨らんだ股間を触らせる。
「わー、凄い硬い。ちょっとドキドキしちゃった……」
「もう一週間以上してない。限界だよ」
「ゆきも本当はパパとしたい。こんな切ない気持ち久しぶりじゃない?」
「ほらやっぱり楽しんでる」
たしかに二人ともしたいと思っているのに我慢しあう今の状況には懐かしさを感じていた。付き合う前、あるいは付き合って間もない頃の甘酸っぱい感情を思い起こさせる。おまけにゆきは、私とプラトニックな関係を保ったまま、別の恋人と一日中セックスを楽しんでくるというのだ。
「クリスマスの夜はさすがに期待してたのに、まさかFさんが先とは……」
「今日帰ってきたらしよっか?」
「Fさんのおこぼれかよ……」
「それじゃやだ?」
「それでもいいです」
むしろそこが興奮ポイント。ゆきもわかってやっている。
「でもどーせまたすぐ寝ちゃうんじゃ?」
「んー、そのときは明日」
「約束だよ」
「うん」
軽く肩を抱いて唇を重ねる。妻の身体は、いつもと違う匂いを放っている。前回のクリスマスデートでFから貰ったという香水をつけているのだろう。夫以外の男が好む匂いを身にまとい、その男に抱かれに行く妻。私はたまらなくなり、ゆきをぎゅっと抱きしめた。
「パパ、どうしたの、痛いよ」
「もう少しこうさせて。ゆき、大好きだよ」
「うれしい。ゆきもパパのこと大好き」
「あのさ、スカートの中、ちょっと見せてくれる?」
「何バカなこと言ってるの?」
「いいじゃん、子どもたちもいないんだし」
クリスマス後に子どもたちだけで近所の祖父母宅へお泊りに行くのは、ここ数年の恒例行事である。スポーツクラブや塾にもそこから通う。じじばば孝行をしつつ子どもたちも喜び、私とゆきは束の間の夫婦水入らずの時を楽しむ。三方良しの年末イベントなのだ。
「今年の夫婦の『お楽しみ』は寝取られプレイなんだから、さあ早く」
「……エッチ……」
「いいからいいから」
「……恥ずかしい」
「それは、例の『あれ』を穿いてるから……?」
「……内緒」
「じゃあ、なおさら見せて」
「もう……」
実は例のランジェリーの存在を、ゆきは私に明かしていた。香水とともに「こんなのもくれたの」と言って私に見せてきたのだ。「次回のデートで着てきてって。可笑しいよね」。あっけらかんと笑いながらではあるが、アナルセックスのことは黙ったままで、しかも受け取ってから報告までの半月以上のタイムラグに、妻の迷いが表れている気がした。はしたない「紐パン」を広げて「こんなの着れるわけないよねー」と笑っていたゆきが、この下に「あれ」を身につけているのだとすれば、それはつまり――。
私の心臓の鼓動はいやが上にも早くなる。
「さぁ……」
「……」
呆れたような表情を浮かべながらも、ゆきはスカートを両手でつまみそろそろと持ち上げてくれた。
「あんまりジロジロ見ないでよ」
太ももが顕になり、タイツとガーターベルトが姿を表した。股間の三角地帯が顕になるまで、もう少し。
「はい……」
あぁ、穿いている――。
その意味を知る私にとってまさに絶望の光景。
丸見えの黒のショーツは、いざ着用しているのを目の当たりにすると、あまりの布地の小ささに驚く。極小のレース地の脇からも網目からも、妻のよく茂った陰毛が勢いよくはみ出してしまっており、お世辞にも可愛いとはいえない。おしゃれなファッションもメイクも屈託のない笑顔も、すべての女子力が台無しである。
なのにそれがゆきの清楚な風貌と、スレンダーながらも人妻らしくむっちり肉づいた下半身と組み合わさると、俄然フェロモンを帯びて見える。
「穿いていくんだね」
「うん……変だよねこれ、恥ずかしい……」
「うん。変だし、すごくいやらしい。毛は剃らないの?」
「剃らないでって言われた」
「言うこと聞いちゃうんだ。こんな恥ずかしいのに」
「……ごめんね」
笑ってはいるが、今日これから会う男のために恥ずかしい命令を素直に聞くというのは、いったいどんな気持ちなのだろう。私のいないところでランジェリーのタグをとり脚を通し、鏡の中の自分がだらしなく陰毛をはみ出させている姿を見ているはずなのだ。三十八歳にもなって男の性欲の具にされてしまう境遇を情けなく思わなかったのだろうか。