Farewel l-34
『・・・・感謝します、セリス様。貴女からの餞、確かに受け取りました・・・・』
『・・・・・・これから、どちらへ・・・・?』
『ドマに、行くつもりです・・・・』
『ドマに・・・・?』
『教授の肩書きがあるとはいえ今更フィガロの大学に復帰するつもりはありませんでしたから。
・・・・・実は以前から古い知り合いを通じてドマ大学の講師の口について話をもらっていまして・・・・いつでもいい、とは言われていましたが、今までは迷っていたので保留していたんです』
『・・・・・・・』
『ですが・・・貴女のお陰で気持ちを切り替えることができました。ドマの話を受けようと思っています。
これからはクリステール様ではない・・・・貴女を心の支えにして頑張りたいと』
『嬉しい・・・そう言っていただけて・・・・・。
・・・・フィガロにはこれからも来ていただけるのですか?』
『無論です。ドマで落ち着いたら、エドガーや貴女に会うために、必ず機会を作ります。
これからはフィガロを無意識に避けたり、過去を思い出して欝することはない。
貴女の顔を見ることが楽しみになりましたから・・・・』
『私も、楽しみにしています・・・・』
(・・・・また、近いうちに)
セリスの眼前で次第に小さくなっていく船体が、港の照明すら届かない夜の闇の中に溶け込んでいった。
セリスはそれを見届けるとクルリと踵を返す。
今日は昼間から慌ただしくフィガロ城を飛び出してきてしまったので、
当初予定していた王妃としての執務が全てキャンセルになってしまった。
城を飛び出してくる前に侍女達には行き先と目的は咄嗟に告げたとはいえ、
流石に夜遅くなっての未帰還では騒ぎになっていてもおかしくはない。
(さぁ、エドガーや皆に何と言い訳しようかな。・・・・これで暫くは1人の外出ご法度になるかしら・・・・)
ため息混じりの自嘲の中であっても、
セリスの心中はどこか晴れやかだった。
今までのように夫以外の男と背徳の欲望を纏いつつ、
今回は結果として1人の人間の“人生の転機”に立ち会い、彼を前向きな方向に導くことができたのだから。
彼女の心中を現しているかのように
軽やかな足取りで停車中のバイクの下に向かっていた―――――――――――
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