新たな露出への挑戦-2
サクミに促されて家を出たものの、
朔太郎には今一つサクミの言っていることの意味が分からなかった。
(自分の過去や諸々がバレそうになって、慌てて誤魔化そうとしたんじゃないのか?)
正直、朔太郎はそんなことを思いながら駅への道を歩いていた。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、人通りはまだ少なかった。
サラリーマンたちが集まるビジネス街や、自粛と言う言葉の意味さえ知らない人々が群がる繁華街とは違って、朔太郎の住む町は典型的な住宅街だった。
駅までの道も、高校に通っていた頃には、
顔なじみのおばさんや性格の悪そうな猫とすれ違うくらいで、
あとは駅へと向かう学生たちと、同じ方向を向いて歩いているだけだった。
この1時間後にサクミが同じ道を通る。
駅までの道順を頭に思い浮かべると、
ここからだと一度は必ず大通りを渡ることになる。
サクミは距離的には一番近い横断歩道を渡るのか、
それとも、駅からは少し逆方向に向かうことになる、遠回りの歩道橋を渡るのか、
ここに一つ目の大きなポイントがある様だった。
(ちょっと待てよ。横断歩道での露出?どうやって?
やるんだったら、当然、歩道橋だろ?
いや、待てよ。これはオレのカメラマンとしての才能を磨くための特訓だとサクミは言っていた。
だとすれば、そんな単純な、誰にでも想像がつくような場所で、当たり前のように露出などするだろうか。
じゃあ、どこだ?駅に着くまでの露出ポイントは?)
朔太郎はもう一度地図を開き、ルートを確認した。
朔太郎の家から駅まで、大通りを渡れるポイントを確認する。
まずは家を出てからしばらく住宅街を直進し、
公園の角を右に曲がったところにある横断歩道。
公園を右には曲がらずに、さらに住宅街を進み、マンションの角を曲がった先にある歩道橋。
確かに歩道橋を渡ると、数十メートル遠回りになる。
しかし、露出ポイントとしては、歩道橋上が一番可能性がある。
公園の角を曲がった先の横断歩道。
マンションの角を曲がった先の歩道橋。
どっちだ。
サクミの、最初の露出ポイントはどこだ?
(あれ?待てよ?)
朔太郎はサクミと自分のかかわりについて思い出していた。
(サクミに言わせると、自分とサクミの出会いは、3歳の頃だったという。
もちろん、オレにははっきりとした記憶はない。
でも、その時がオレにとってはカメラマンの第一歩だったような感じだ。
オレの、カメラマンとしての原点……。
だとすれば、オレとサクミの、露出の原点……。
そうか、公園だ。
あそこの公園で露出できそうなポイントは?
確か、あそこにはブランコと、砂場と……。そうだ。滑り台だ。)
朔太郎は迷いなく、住宅街の中にある公園へと向かい、
その片隅にあるベンチの下に隠れた。
(ちょっと待てよ?この場所で、この態勢で1時間も待つのか?)
朔太郎は自分の行動がいささか性急だったことを自覚し、ベンチの下から出た。
3歳くらいの男の子が、ベンチの下から突然現れてた朔太郎を見て、
泣きながら母親の元へ走っていった。
(確かに。そりゃあ驚くよな。)
朔太郎はベンチに座って、公園を見回した。
(簡単に、このベンチの下に隠れたけれど、
おそらくサクミが露出をするのはあの滑り台のてっぺんだ。
ここからカメラを構えて、果たしてサクミのスタートの中を覗けるだろうか。)
その時、さっき泣きながら走り去っていった男の子を抱いた母親が
朔太郎の方へ近づいてきた。
朔太郎は子どもを驚かせて泣かせたことで、
母親が朔太郎を責めに来たのではないかと身構えたが、母親の言葉は意外だった。
「あ、すみませんでした。うちの子、なんか変なこと言いませんでしたか?」
「えっ?い、いや、別に。」
「あ、だったらいいんですけど。
なんか、変なお兄ちゃんが地面から出てきたなんていうものですから、
なにか失礼なことでも言わなかったかと思って。」
母親は自分の胸にしがみついている男の子の顔を朔太郎の方へ向け、
「ほら、大丈夫でしょ?」
と言いながら頭を下げ、公園から出ていった。
(3歳、暗い?すっかりおびえちゃって。驚かせちゃったみたいだ。
お母さんののお母さんの胸にしがみついちゃって。
あんなにお母さんの襟首を引っ張るから、
もう少しで胸の奥の方まで見えるところだったな。)
(胸?そうか。なにも、スカートの中だけじゃないんだ。
女が普段は見せないけれど、あえて見せる場所。
それは必ずしもスカートの中だけじゃない。
いや、そカートの中だって、前なのか、後ろなのかじゃ、見せ方が違う。
そしてもう一か所。
忘れてはいけない場所だ。胸だ。乳房だ。そして乳首だ。ふくらみだ。)
(ちょっと待てよ。本当にそれだけか?
女が見られたら恥ずかしがる場所。。。。
胸。スカートの中。お尻。他には、他には何か?
あ、そうだ。腋の下。
えっ?でも、腋の下の露出なんて、どうやって写真に収めるんだ?)
至近距離にいるならば何ら難し事はない。
でも、サクミの出した条件は、サクミに気づかれないように、と言うものだった。
腋の下の写真を、サクミに気づかれずに写す方法なんて、あるんだろうか。
そして、それが可能な場所は?
電車?つり革?なるほど。その手があったか。
朔太郎はがぜんやる気が出てきた。