お姉さまのミリタリー講座〜狙撃編その1〜-5
『心の準備が出来たら息を吸って―――』
頭の中のお姉さまの声の通りに息を吸う。
『吸って―――』
さらに吸う。
『吸って―――』
そろそろ苦しくなってきた。
『吸って―――』
流石に肺の空気を入れられる許容範囲を越えたのか、思わずむせてしまう。
『ふふふ…ごめんなさい、真剣な由衣の顔を見てたらつい悪戯したくなってしまったわ。』
…そういえば、この時少しお姉さまにイジワルされたんだっけな。
頭の片隅でそんな事を思い出しながら、私は自分の想像力を呪った。
後を見ると、班のみんなが不思議そうな表情で私の事を見ている。
恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、改めて意識を前に戻し銃を構えた。
『さあ、気を取り直して行きましょう。』
さっきの恥ずかしさが過ぎたせいか、自然と緊張感は薄れていた。
まあ、‘当たって砕けろ’状態でもあるのだけど、無駄に緊張するよりはそんな気分で良いと思う。
『息を軽く吸って―――』
今度は完全真面目モードの脳内記憶お姉さまの指示の通り、私は息を吸った。
『止めて。』
言われて息を止める。
お姉さまによると射撃の精度が一番良くなる時が息を止めている時らしい。
その一番良くなる時を意識して撃て…と、お姉さまは言っていた。
『トリガーを引いて。』
指に力を込めた途端、破裂音と共に衝撃が走る。
同時に反動に流されるように私の腕が少し上に上がった。
少し経って正気に戻った私は急いで近くに置いてあった双眼鏡で的の様子を見る。
「あ……。」
良く見ると本当に隅っこ…枠辺りにちょっと欠けてる部分が有った。
「当たった……。」
いや、これは当たっている内に入るのか?と言う疑問を持たれるかもしれないが当たった物は当たった。
…嬉しさのあまり思わず私はお姉さまの元に駆け出す。
「お姉さまっ!」
私はそのままの勢いでお姉さまに抱きついた。
そして、お姉さまの匂いに包まれながら私は思う。
…銃を撃つのって楽しいな。
沙藤由衣、16歳の夏にして銃器の楽しさを知る。
…そんなナレーションが頭の中で流れた気がした。