想[2]-1
私は名屋君のファン!ファン、ファン、ファンなのっ!!それ以上でも以下でもない。さっき目が合ったのだってたまたま!それに私は名屋君に恋をしない。だって、私には…。
「主里ぃー」
玄関の外で私を呼ぶ声がした。顔を上げると自転車にまたがってこちらに手を振る他校の男子生徒がいた。
「暁寿っ!」
私はその人に駆け寄った。
「待ってたんだよ?」
「ごめん、ちょっと部活のミーティングに呼ばれちゃって…」
「引退したじゃんか」
「元キャプテンのオレがいないと話まとまんねぇらしいよ」
「頼られてるんだぁ、すごいね!」
「あったりめぇよ!」
私は笑いながら暁寿の後ろに乗った。
「じゃ行くぞ」
私がちゃんと乗ったことを確認して、暁寿は自転車を漕ぎ始めた。最初はフラつくので、私はギュッと暁寿の肩にしがみ付く。暁寿の温もりが掌から伝わってくるこの瞬間が好きだった。
相田 暁寿、私の大切な人。芸能人じゃなく私は一人の男性として、暁寿を見ている。『LIKE』じゃない。『LOVE』なんです。私、暁寿のこと大好き。そういえば、暁寿と付き合いだしてもうすぐ2年になる。一年生の10月、私たちは付き合いだした。
暁寿とは中学の時、同じクラスだったけど、必要最低限しか話さなかった。特別好きなわけでもない、嫌いでもない、ただのクラスメイト。私は暁寿をそう思っていた。
高校も離れ、学校になれてきた夏、未宇からメールが届いた。内容は暁寿とメールをしないか、という誘いだった。懐かしいと思い、軽い気持ちでオーケーした。知ってる人だったから気兼ねなくメール出来ると思った。
一ヵ月くらいして、私は暁寿に恋している自分に気付いた。メールや電話で話している内、今まで知らなかった暁寿が見られてとても嬉しかったし、もっと近い存在になりたいと思った。そして10月…暁寿から電話が掛かってきた。いつもとは違う、落ち着いた声に私が何を言われるのかと緊張した。
…初めての告白。
もちろん答えはYes。その日からもうすぐ2年…。
…早かったなぁ。未宇が私と暁寿の共通の友達じゃなかったら、私は今こうしてないんだろうな…。
「どうだった?今日の体育祭」
前を向いたまま、暁寿が大声を出した。
「楽しかったよ!名屋君の雄姿が見れて」
「名屋君?あぁ、主里のアイドルの…」
「そうそう。かっこよかったよ〜」
「まっ、オレのが百万倍かっこいいけどな!」
「アハハ!それはどうでしょうねぇ」
いつも暁寿はこうだ。私が名屋君の話をしても、怒ったりヤキモチを焼いたりしない。それは、私を心から信じてるということなんだろうけど…。嬉しいような寂しいような…。暁寿は私が他の人の話しても平気なのかな。だからハマっちゃうんだよ、名屋君に…。
「ねぇ、暁寿…」
「あ?何だ?」
「暁寿は…私が名屋君のこと話してもなんとも思わないの?」
ずっと聞きたかった…。
自転車の軋む音が妙に響く。静かな橋の上は私たち以外誰もいなかった。
「別に?」
暁寿が明るく言った。
「好きなのはオレ一人だけだろ?お前はミーハーだからなぁ。仕方ねぇよ!その変は諦めてるからさ…そんだけオレは主里を信じてんだよ」
信じてる、か…。
「そっか…ありがと…」
信じてる…暁寿はいつも強きで余裕だね。だから、たまに不安になるんだよ。好きなのは私だけなんじゃないかって…。『信じてる』って幸せで残酷な言葉だよね。相手に関心が無いときでも言えちゃうんだから…。きっと、私はこれからも名屋君の話を暁寿にし続ける。だけど、ルールは守る。私が好きなのは名屋君じゃない、暁寿。それを忘れないために。
私は暁寿の背中に額を付けて、全体重を預けた。人の体温ってあったかい…。