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【学園物 恋愛小説】

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想[1]-2

―……!

スローモーションだった。追い掛けるのに夢中で勢いよく走ってくる名屋君が見える。どんどん近付く。あれ?このままじゃ…ぶつかる…。
「ひゃっ」
私は反射的に目を閉じた。真ん前でキュッという音が聞こえた。それ以上何も起こらない。ゆっくり目を開けてみると目の前に息を切らして、悔しそうな顔をした名屋君が中腰で立っていた。距離にすれば30センチぐらい。私のすぐ近くに名屋君がいた。
名屋君の視線は真下に向けられていた。流れる汗を手首に付けているリストバンドで拭う。そして視線を戻すその一瞬。本当に一瞬…たった一瞬だけど…目が合った。
名屋君がきびすを返してコート内に戻っていく姿を見届けてから、私はやっとスローモーション世界から抜け出した。
「未宇…今さ、名屋君と目ぇ合った…」
「まっさかぁ〜、そりゃ無いって。まぁ、確かに主里の前にいたけど。でも、それは勘違いかたまたまだよ。別にあんたじゃなくても、目合ってたんだよ、きっと。ていうかぁ、主里の場所最高じゃんかぁー。羨まし過ぎぃ」
不満の声を上げつつも目は試合に釘付けの未宇。そんでやっぱり「ギャーッ、ヤバイィーッ、かっこいいー!!」と叫ぶ。
未宇はああ言ってたけど…確かに目が合った。お互いにお互いを見ていた瞬間があった、確実に…。でも、そんなこと思うのは図々しすぎるよね。未宇の言った通り、たまたま視線の先に私がいただけかもしれない。いや、むしろそっちの可能性の方が高い。名屋君が私を知っているとも限らない。クラスも違う、接点もない、私の顔すら知らないかもしれない。
まっ、いぃか。
所詮、私は名屋君ファンの一人。たまたまだろうが何だろうか目が合ったのはラッキーってことで。私はまた試合観戦をすることにした。黄色い声は忘れない。だけど、私の声援は周りの声でかき消されて名屋君の耳に届くことはない。


結局、名屋君のクラスは負けてしまった。表彰式の時、壇上に上がっていったのは名屋君だった。
校長先生が
「男子バレー準優勝、3年Α組」
と言うとΑ組からわぁっと拍手が沸き上がった。
いぃなぁー。私たちもΑ組だったら一緒喜べたのにね。なんてことを未宇と話していると、ステージの上から名屋君が降りてきた。すると、名屋君は真っすぐクラスの列には帰らず遠回りをして、私たちの斜め後ろに座っていたバスケ部の男子と何か話していた。
「何話してんだろうね」
「さぁ、わかんない。小声だから何も聞こえない…」
私はちょっとだけ後ろを振り返ってみた。
心臓が跳ね上がった。顔がマッハで赤くなる。びっくりした。
「…ぇ」
小さく呻くと私は、真っすぐ前を見据えた。
「ちょっと、何?どうしたの!?」
「なん…でもない」
私は未宇の頭を両手で押さえて無理矢理前を向かせた。後ろのこそこそ話は終わり、一人分の足音が遠退いた。名屋君、戻ってったんだ。私は膝を抱える腕に力を込める。
…やっぱり、試合中目が合ったのはたまたまじゃない。名屋君は私を見てた。だって…さっき後ろ振り返ったとき、名屋君と私…バッチリ目が合ったんだもん…。


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