キミハ、ココマデ-3
* * *
海をまたいでの遠距離恋愛は、思ったよりも順調であった。
「うーむ、インターネットとは便利なものだな」
そんな初めてパソコンに触れたおじいちゃんみたいな言葉を口にしてしまうほど、SNSは浩矢にとって救いの神となった。
写真や動画の投稿はもちろん、無料通話や生中継だってできる。十時間ほどの時差さえ乗り越えれば、距離の溝を埋めることは十分に可能だった。
おかげで最近の浩矢はすっかりSNSに入り浸り。部屋に入るとまずパソコンを立ち上げ、アプリを起動させる習慣が染みついている。
「お、更新来てる」
今日もまた、志保の近況がアップされていた。
新着情報ありを知らせる見慣れたマークが、画面の上部にちかちかと光っている。
志保が載せるのは学校の風景や部屋の様子、留学生同士の他愛もない一枚や集合写真など、微笑ましいものばかり。
そこに、
「毎日ヒロちゃんのこと思い出してるよ」
「ちょっと寂しい時もあるけど、頑張る」
「大好きだよ」
などという短いながらも愛情に満ちた言葉がちょこんと添えられているのだ。
「どれどれ」
期待を込めて呟きながら、浩矢が画像を開いた。
「おお」
この日上げられていたのは、楽しそうなパーティーの集合写真。ウェルカムの文字が映っているところをみると、おそらく留学生の歓迎会なのだろう。
「うんうん。志保の奴、うまくなじんでいるようだな。友達も増えて……ん?」
満足げに頷く浩矢の目に、ふと一人の男が留まった。
褐色の肌に、細身ながら筋肉質の肉体。白く並びのいい歯が、爽やかで健康的な印象をより強く際立たせている。
「へー」
呟きながら、浩矢はじっと男の顔を見つめた。
「こういう奴もいるんだなー」
吐かれた言葉に、苛立ちの色はまるでない。
そう、焦る必要など何もないのだ。
「ヒロちゃんがいたらもっと楽しかったのに」
何しろ今は、そんな志保からのメッセージを読んだ直後。
写真に男が映っているくらい、浩矢にとっては何の問題もないことであった。