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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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清爽なキッス-5

「そんなこと言ったら、私なんか、まだ隼斗が野球するとこ見たこと無いんだからね」
 そう言いながら、真奈は腕時計に視線を向ける。
「あ、そろそろ始まるんじゃない?」
 梓も言われて自分の時計を見やると、針はすでに11時を10分過ぎていた。そして更に。
『キィン!』
 甲高い金属音が梓と真奈の鼓膜に伝わった。どうやら誰かがヒット性の当たりを放ったようだ。
「始まったみたいだね」
「早く行こう!」
 言うや否や、真奈は梓の手を取り球場のエントランスへ駆け出した。
「え? ちょ、ちょっと真奈!?」
 唐突に手を引かれたこともあるが、“梓ほどは”積極的でない真奈としては意外な行動に流石の梓も反応できず、そのまま真奈に引きずられるように入り口へと消えていった。
 ──どうして同じ位の年なのに、こんなに力の差があるんだ?
 ベンチに深く座り、純一は同級生らと試合の状況を見つめていた。
 試合は現在6回の表。先攻をとっている月雁高校の攻撃中なのだが……。
『ブンッ……』
 バットが虚しく空を斬る音が球場に木霊した。そしてその斬空音とハーモニーを奏でるは、月雁ベンチから漏れる溜め息であった。


 試合の主導権は、前々からの予想どおりに(いや、予定どおりと言ったほうが正しいか)開始直後に菊水館高校の手中に収まった。
 初回、月雁高校の攻撃は先頭1番打者がいきなりの空振り三振。続く2番、3番も相次いでボテボテのショートゴロに倒れ、あっさりとチェンジ。
 その裏の菊水館高校の攻撃は、先頭打者が初球、インコースの高めに甘く入った直球を強打。打球は月雁の外野守備を崩壊させる3塁打となって、いきなりのピンチ。続く2番打者にもしぶとくライト前へ運ばれて、タイムリーとなりあっけなく先制される。その後もヒットが生まれこの回一気に3点を先制された。
 月雁にも好機はあった。5回に初ヒットが飛び出し、手堅くバントを決めてランナー2塁のチャンス。しかも打順はクリーンアップ、3番打者に回った。
 此処で菊水館は、何とピッチャー交代。代わったピッチャーが、何とも線の細いどうにも頼りない雰囲気の童顔も可愛らしい少年。どうやら1年生であろう、着なれていないせいか、ユニフォームに着られているように見えた。月雁ベンチがこれを見て、“イケイケムード”を高揚させないわけがなかった。
 しかし、現実とは巧く事が運ばないもの。この童顔ボーイ、如何せん球が速いのだ。インコースに平気でストレートを投げる度胸もあると来たものだ。
 そんな球威のある球をスパスパ投げられて、果たして月雁ナインはその白球を弾きかえすことができるか?
 ――いや、できるわけが無いのだ。
 ものの見事に3番、4番は童顔ボーイに2者連続三振に斬ってとられ、好機は光のごとく月雁ナインの下から立ち去っていった。
「クオン、ナイスピッチ!」
「やるじゃねえか、クオン!」
 どうやらこの童顔ボーイは名前を“クオン”と言うらしい。見事なピッチングで、初めてのピンチを切り抜けたこの恐るべき後輩を、手荒に歓迎する先輩諸君。“クオン”は最初こそ笑顔だったものの、だんだんと引き攣ったものになってきた。
しかし、引き攣った笑いを浮かべながらもそれを拒まないことからも、この“クオン”と先輩の関係はなかなか親密のようである。──“やられなれている”という感じも見受けられるが。

対して。
「あ〜あ、また三振か……」
度重なる斬空音に落胆を隠せない純一。その隣では隼斗も溜め息をついていた。
「なあ中野。あれってホントに1年生なのか?」
純一の横に座ったのは、1つ前の打席で、当たりは良かったもののショートの正面に打球が倒れた有河東風観だった。
「らしいですけど……」
言葉に詰まる純一。


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