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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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清爽なキッス-11

「――次、次に相手したときに勝てばいいのよ」
「そうは言ったってなあ……」と、後頭部をポリポリ掻きながら純一は続ける。
「また相手してもらえるか、なんて分からないぞ」
事実、やはり“センバツ”に出場した過去を持つだけあり、菊水館高校は時折遠征を行い全国の強豪校と練習試合を行っている。今回、一般的な公立校である――超進学校であることはここでは除外するが――月雁高校が手合わせできたのは、かなり幸運なことであるのだが。
「甘いなぁ、純一は」
 呆れたように梓は言う。
「どうして?」
「“相手してもらう”なんて考えるから甘いの。自分たちから向かっていかなきゃ」
 なおも理解を示さない純一。黒目がわずかに小さくなっている。
「大会とかで対戦したときに勝てるようになればいいの。あっちから練習試合を申し込まれるようになればいいのよ!」と瞳を輝かせながら梓は語る。
「そんな無茶な――」
「無茶じゃないよ!」
 純一の言葉尻をひったくる梓。力の漲る瞳が、彼女の言いたいことの全てを物語っている。
「大丈夫、絶対無茶なんかじゃない。今日の純一なら……、ううん、今日のみんななら絶対大丈夫だから」
今度は微笑みながら言う梓。今日は一段と表情が豊かな気がする、そんな純一だった。
「――そうだな、みんなでやっていけば何とかなりそうだな」
「そうだよ。だって“菅原梓印”の保障付きだもん! 絶対安心!」
「何だよ、それ?」
 2人は、あはは、と笑いあった。
「――でもな、梓」と言って、純一は立ち止まった。背後でその様子を感じ取り、梓は純一を振り返った。
「俺、今日は本当に感謝してる。梓が来てくれてなかったら、ヒットなんか打てなかったかもしれないし、負けたショックを延々引きずっているかもしれない」
 純一は梓の目を見つめて、さらに続ける。
「だから、今日は本当に応援に来てくれて嬉しかったよ。流石に大声で叫ばれたときは恥ずかしかったけど」
 その叫ばれたときを思い出しているのか、純一の頬は仄かに紅く染まってきた。その表情を見るや否や、梓は純一の胸元に飛び込んだ。
「おいおい……」
そう言いながらも、ダイブしてきた梓を自分の胸に抱きとめる。ぼやくような声が出てきてしまったものの、純一は梓のしぐさに自然と頬が緩んだ。
「ねえ」
顔を純一の胸に埋めながら、梓は言った。
「ん?」
「ちょっと屈んで?」
 言いながら、梓は純一の胸元から放れる。そして純一は梓の意図したことも分からずにまさに言う通りに少しだけ上体を屈めた。刹那、梓は若干背伸びをして、純一の頬辺りに自らの顔を近付け――、そのまま頬に、短いキスをプレゼントした。
「……ちょっと〜、そこで固まらないでよ」
 梓は朗らかな笑みを浮かべながら、おどけた口調で純一を非難する。純一は、あまりに突然なキスに対する驚きと恥ずかしさと、更にはキスを“予知”出来なかったことへの愚かさに、身動きが取れない状態でいる。公衆の面前――現在“二人”は球場から出て間もなくの大通りに居る――で抱きつかれた上にキスまでされては、どんな人でも硬直せざるを得ない気もするが。
「まさか……、嬉しくなかったの?」
 一転して“小悪魔的”な表情になる梓。
「いや、ちょっとビックリしただけだって。そんなことないって」
 純一は前傾姿勢を元に戻しながら言った。梓のこの表情にたじろぎながら。
「そう? まあ、いいけどね」
 梓は純一の態度に若干不服そうな声を出す。同じように言われてあからさまに喜んだり、『嬉しい』と言ったりするのもどうかと思うが、普段朴訥なところのある純一のこういった態度は、何とももどかしいような気分になる。


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