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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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お持ち帰りされる人妻 (3)-3

 テーブルにスマホを置いたゆきの手を、今度はしっかりと両手で握り包み込んでくるF。ニコニコしている。何やってるのこの人。思わず周囲に夫がいないかキョロキョロ確認してしまう。

「勘違いじゃないかもよ?」
「いや、勘違いでしょう。ほら何やってんの? 早く手を離して」
「一度は愛した女性に恥かかせるなんてできないよ。勘違いじゃないってことにしてあげる」
「なにを恩着せがましく……素直にゆきの手を握りたいって言ったら?」
「そしたら握らせてくれるの?」
「……まあ少しくらいなら、別に」
「じゃあゆきのおっぱい揉みたい」
「は!?」
「あ、間違えた。ゆきの手、握りたい」
「一気に握らせたくなくなったんですけど」
 握られたままだった手を引くゆき。
「ごめんごめん、つい本音が」
「どーりで。お店入ったときからチラチラ胸元見てたよね。視線感じてたんだよね。実は」
 モヘアニットに包まれた暖かそうな胸の膨らみを、Fの視線から守るように両手で覆い隠す。
「ごめん。昔よりふっくら大きくなってたのが新鮮で、ついつい目が……」
「太ったからでしょ」
「そうじゃないよ! すごく魅力的で丸くて柔らかそうで可愛くてきれいです。でも本当に謝るよ」
「……」
「ね、本当にごめんなさい。だからはい、気を取り直して手を握らせて!」
 この話題はおしまいとばかりに手を伸ばしてくるF。まったく調子がいい。
「……もういいや……はい、どうぞ」
「ありがとう、しばらくこうしてていい?」
「いいよ……」

 ゆきはつんつんしながらも顔は笑みを絶やさない。嬉しいからではない。いや正直ドキドキしてしまってはいるが、笑顔でいることで、過ちが起きそうな雰囲気をギリギリで食い止めているのだ。パパ安心して。ニコニコ笑っておしゃべりしている間はまだ「単なる元恋人同士」でいられるから。会話が減り真顔になり、目が潤んできたら危険水域。そうならないよう、気をつけます。

「言っとくけどショートケーキのお礼としてだよ。それ以上の意味はありませんからね?」
「わかってますって。ああ、相変わらず小さくて細くてきれいな手をしてるな。懐かしい」

 お洒落なお店で元彼に手を握られ、私はいったい何をやっているのだろう? 本当にショートケーキのお礼? 違うよね。純粋にFくんの手の感触を楽しんでいる。ほらこうやって指と指を絡めて手のひらと手のひらを合わせてすりすりして――。まずいまずいまずいまずい。無言の時間が長いよ、今の私、笑顔が消えてる。真顔になってきっと瞳も潤んでる――。パパ待って、誤解しないで。すぐ元に戻ります。

「ショートケーキが冷めちゃう。食べなきゃ」
 かろうじて手を振りほどきフォークを手に取る。
「ああもう、すっかり冷めちゃったじゃない」
 場の空気をほぐすために一生懸命ボケてるんだから突っ込んでよと思いながらFを見ると、こっちを見てまたニコニコしている。なんだこの人、結構可愛いな。
「はい。あーんする?」
 フォークにイチゴを刺してFに差し出してやると、必要以上にこちらに身を寄せてきたのでびっくりして思わず手を引っ込めた。追いかけてさらに寄ってくるのでさらに手を引く。どんどん近づいてくるFの顔。なに、このゲーム、ちょっと面白い。昔そういえばやったかも。

 肩と肩が触れ合う。目の前十センチにFの顔。いくらなんでも近すぎる。イチゴを刺したフォークを二人の顔の間に挟んで必死にガードする。パクリ。モグモグ。二人を隔てるものが無くなっちゃった、こんなに近いのに。しかもふざけて唇を尖らせこっちを見つめて、いったい何をやっているのだ。食べたのなら早く戻って。
「どう? 酸っぱいかな? やっぱり」
「酸っぱい」
「何その唇。引っ込めなさい」
「酸っぱいよーゆき……酸っぱいから尖っちゃう。甘くして、ゆき……」
 ニコニコのままさらに唇を尖らせる。ああ、昔の恋人の懐かしい匂いがする。何この人は十五年前と同じ匂いさせてるの。思い出すから本当にやめてほしい。
「おねがいゆき……甘くして、酸っぱいよぉ。早く……」
 だからやめて。でもあれ? なんで私、Fくんに顔を寄せて自分も唇を尖らせてるの? このままじゃ私――。


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