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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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お持ち帰りされる人妻 (3)-2

「ひょっとして、Fくんと私が結婚してた未来もあったのかもね」
 そうしたら私は、雄々しく猛々しいペニスで毎日毎晩よがり狂わされていたのだろうか。
「俺は今でもときどき考えるよ。逃した魚は大きかったなって」
「そんな大きな魚じゃないから私」
「そうかな。美人なのはもちろんだけど、仕事でもけっこう活躍してるみたいじゃん」
 ネットで読めるゆきのインタビュー記事は、今回仕事をするにあたってチェックしたという。広告代理店の担当者としては当たり前のことだが、自分の名前でネット検索すると、例の「美人広報まとめ」やら巨大掲示板やらSNSもヒットするのでちょっと恥ずかしい。

「ゆきってやり手だったんだな。今回もA社さんの責任者として出てくるし驚いたよ」
「ゆきのこと見直した?」
「ゆき?」
 一人称がつい「ゆき」になってしまった。
「まさかゆき、今でも旦那さんの前で自分のこと名前呼びしてんの? 恥ずかしいぞそれは」
「ち、違うよ。Fくんの前でちょっと昔にタイムスリップしちゃっただけだから!」
 見つめ合って笑うと、愛し合っていた当時に本当に戻ったような感覚に襲われた。目の前の男と若かりし日のFの顔が重なる。私が二十歳のとき二十七歳だったから今は四十五歳か。渋くていい男になったなと思った。

  *

「次はー○○、○○です。○○線はお乗り換え。お忘れ物にご注意ください。お出口右側です」

 最寄り駅への到着を告げる車掌のアナウンスで我に返る。Fとの会話を思い出しニヤついている自分が車窓に映っていた。
 ああダメダメ。家につく前にのぼせた頭をリセットして。まだ他に確認すべきことがあるはず。
 えっと――夜は連絡してこないよう念を押した。お互い結婚しているのでその辺は問題ない。スマホのロックも通知オフ設定も大丈夫。誰と飲んでどんな話をしたか夫に聞かれたときの脳内シミュレーションも完了。うかつに同期の名前など出すと、どこでどう繋がって矛盾が発覚するかわからないので、夫の知らない同僚と飲みに行ったことにした。何でもオープンに話しあえる夫婦関係は気に入っているけど、浮気には向かないなと少し思った。
 よし、これで大丈夫。あとはいつもと完全に同じ口調で「ただいまー」と言うだけ。できればシャワーに直行し、不倫セックスの残り香を消し去ればすべてが日常に戻る。

  *

 デザートが運ばれてきた。もちろんゆきはショートケーキ。

「ねぇゆき、これ見てよ」
 Fに渡されたスマホ画面には「デザートのショートケーキはなんと自家製。美味ですよ〜、オススメ」というグルメサイトのレビュー。
「これ見てこのお店に決めたよ」
「もぉーFくんたらーー。さすが、『ゆき』のことわかってる!」
 今度はあえて一人称「ゆき」。おどけてちょっと強調してみる。私の大好物を覚えていてくれて嬉しい。

「さっきデザートに迷わずショートケーキ選んでるゆきの姿、懐かしかった。この店選んでよかったって思ったよ」
 スマホを持つゆきの手に、そっと手を重ねようとしてくるF。
「なにFくん? ナンパ?」
 大人の女はこういうとき、いい雰囲気にも悪い雰囲気にもなりすぎないよう機転の効いた返しができるのだ。我ながらスマートな対応。よしよし。
「え? いや、スマホ返してって」
「え? あれ? あ、そっか、ごめん」
「なになに? 手を握られると勘違いしたのまさか?」
 いじわるな笑みを浮かべるF。なぜそんな勘違いをしてしまったのだろう。顔から火が出るほど恥ずかしい。なにが機転の効いた返しだ、なにがスマートな対応だ、私のバカバカ。
「そ、そんなことないけど」
「照れると耳まで真っ赤になるところなんか昔と変わってないな。可愛いよ、ゆき!」
「すみません勘違いしましたすみませんすみません。いいからはい、スマホどうぞ、返します」


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