背信行為-10
沼田はもはや泡を吹く寸前だ。顔色も悪くなって来た。
「さーて、そろそろたっぷりと吐いて貰おうかしら。」
若菜はようやく股間から手を離した。
「あうっ…、ハァハァ…、狂ってる…。頭おかしいんじゃねーのか…!」
そう言った沼田だが、目が完全に怯えていた。そんな沼田の顎を掴み冷たい視線を浴びせながら言った。
「頭おかしいのはアンタらでしょう?麻薬を使って悪事を働くとか、警察に関わる人間としては最低最悪な行為よ?マジ、殺したい気分だわ。」
沼田は若菜の目の奥に潜むものに触れてしまった。それを感じた瞬間、全身が凍りつきそうな寒気を感じた。
「さて…吐いてもらいましょうか。あなた達がしていた事は何なのかな?」
若菜は立ち上がり腕を組み、床に倒れる沼田の周りをゆっくりと周回しながら尋問する。まるで獲物を狙いを定める禿鷹のように。
「…」
「黙秘は許さない。今度こそ潰すよ?」
沼田は無意識に体が震えて来た。
「…麻薬を組に横流ししてた…。いや、売り捌いていた。その金を…清水さんに渡して報酬を貰ってた。」
「そう。お得意様は?」
「帝東組…、富士組、花山組、川下組…」
「どれも麻薬大好きな組ね。まさかその入手源が警察だったとはね。あなたらはよほど私をクビにしたいようね。吉川君、マギーに電話して昨日の麻薬がらみの金銭強奪事件の件で被害にあった組の名前を豪ちゃんに聞いてもらえるように伝えて?」
「はい。」
吉川はマギーに電話をかける。
「で、誰かを使ってその麻薬を買う。ま、買い戻すと言った方が早いか。さすがに全量取り戻す事はできないだろうから、今保管してる量を調べればあるはずの量よりも減ってるはずよね。初めのうちは足りない分をどこかから仕入れてくれば良かったけど、だんだん帳尻が合わなくなって来た。お金も足りなくなる。そこで麻薬取引後、現金の行方を追い強奪を繰り返してたんじゃないの?でもヤクザも馬鹿じゃない。現金強奪の噂を聞くとガードが固くなり現金回収がままならなくなった。そこでビッツコインの登場ね。現金取引は危険だからとビッツコインでの取引を持ちかける。さらにそこでインサイダー取引。取引の前に大量のビッツコインを買ってるはずだわ?大きければ億単位のビッツコインが動いたとなればビッツコインを運営するLASK社の株は上がる。私達はビッツコインにばかり注目してたけど、本当の狙いLASK社の株だったのね。そこで利益を得ている人物に私達が関係してる者がいるかいないかを調べれば誰が重要人物なのかが分かるはず。とにかくあなた達はビッツコインや株で私腹を肥やしてたって事。そう言えば明日、川下組が麻薬取引をすると言う情報が入ってるけど、あなたはその取引用の麻薬をくすねに来たんじゃないの?」
「い、いや…」
的を得過ぎていて何も反論できないと言った様子だ。そこへマギーに電話していた吉川が報告を入れる。
「帝東、富士、花山、川下…全て現金が強奪された被害者だそうです。」
若菜はニヤリと笑う。
「やっぱりね。これであなた達の悪事は分かったわ。これから清水さんを呼び寄せて事情聴取を行うわ。もう好き勝手にはさせない。」
若菜は清水に電話をしようとスマホを手にした。