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ある女教師の受難
【教師 官能小説】

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紳士的な男-1

「ユリ、ちょっと元気ないんじゃない?」
 友人のそんな言葉に、ユリはハッとして顔を上げた。学生時代からの友人が、グラスを傾けながら少し心配そうにユリを見つめている。
「そんなことないけど……そう見える?」
「見える。黙り込んじゃって、表情も暗いし……。何かあった?」
「別に何もないよ。大丈夫」
 取り繕うように微笑んでみせ、ユリは氷が溶けて薄くなってしまったカクテルに口をつける。

 あの忌まわしい出来事からしばらくが過ぎたが、ユリは悪夢のような時間を忘れることが出来ずにいた。そんな時、久しぶりに飲みに行こうと実咲が連絡をくれた。気心の知れた友人とお酒を飲み他愛もない話をすれば気が晴れるかもしれない、そう思って出て来たのだが――恐怖と羞恥の記憶は簡単に消えてはくれず、いつの間にかぼんやりしていたらしい。
「悩みがあるなら聞くよ。話すだけでもスッキリするかもしれないし」
 実咲の優しい言葉に、ユリは再び笑顔を作る。
「ありがとう。でもホントに大丈夫だから。あ、私おかわり頼もうかな」
 いつも通りの自分を装いメニューを開く。
 実咲の気遣いは嬉しい。だが、例え親友であろうと到底話せるわけがない、あんな出来事を。自分がどんな目に遭い、どうなってしまったのかなど……。記憶を洗い流そうとするかのように、ユリは強くもないアルコールを飲み干した。

*****

 店を出る頃には二人ともすっかり酔いが回っていたが、週末の夜の喧騒はこのまま家に帰るのが少し勿体ないような気分にさせた。
「それじゃ、もう一軒行く? 明日は休みだし。それともカラオケでも……」
 実咲は上機嫌でハンドバッグを振り回しながら歩いている。危ないからやめなよとユリが声を掛けるよりも早く、それはすれ違う人に当たってしまった。
「ちょっと実咲ってば……! すみません、大丈夫ですか?!」
 ユリは慌てて実咲に駆け寄り、不運な男性に詫びた。
「ああ、大丈夫ですよ……あれ? ユリ先生じゃありませんか?」
「え……?」
 品の良いスーツに身を包んだ、紳士然とした物腰の中年男性。それは偶然にも、悠司とトラブルを起こしたあの少年の父親、高岡だった。
「……高岡さん!」
「奇遇ですね、こんな所でお会いするとは。今日はお友達とご一緒ですか」
 高岡は気さくそうな笑顔を見せる。
「はい……あっ、申し訳ありません! お詫びに伺うとお約束したのに、私まだ……!」
 ユリは、後日改めてと言っておきながら連絡すら出来ていなかったことを思い出した。自身が抱えてしまったトラブルのせいで、とてもそこまで気が回らなかったのだ。だが、社会人としてそんなことが言い訳にならないのはよく分かっている。

 儀礼を欠いた上に酔った姿まで見られてしまうなんてと、ユリは自分の情けなさに恥じ入るが高岡は笑顔を絶やさない。
「いえ、そんなに気になさらなくても。息子も特に気にしている様子もありませんから」
 すると横で見ていた実咲が会話に割って入る。
「なになに、知り合い? かっこいいじゃん、ちょっと歳行ってるけど」
「ちょっと、何言ってるの実咲!」
 実咲はユリと高岡を交互に見比べながらニヤニヤしている。
 実咲の言うとおり、高岡は確かに外見の整った男だ。上背があり、高級そうなスーツが良く似合っている。真っ白なYシャツには無駄なダブつきがなく、適度に鍛えられているのが見て取れる。例えば同年代のサラリーマン達の群れに紛れたとしても、高岡はきっととても目立つことだろう。
「すみません高岡さん、友人が失礼なことを……もう、実咲ってば」
 困った顔のユリと好奇心を隠せない様子の実咲を見て、高岡は楽しげに笑い声を上げた。
「だいぶ飲まれたようですね。ユリ先生も足取りが少々危なっかしい」
「少し飲みすぎたみたいです……すみません、みっともないところをお見せしてしまって」
「よろしければ私の車でお送りしましょうか?」
 高岡の申し出にユリは慌てて首を振る。
「いえ、そんな……わざわざ申し訳ありませんし、それに私たちもう一軒行こうかって……ね、実咲」
 振り返ると、実咲は通りかかったタクシーに手を上げている。
「実咲?」
「いいじゃん、送ってもらいなよ。私タクシーで帰るし。カラオケは今度ね! また電話する!」
 いたずらっぽい笑顔で、実咲はさっさとタクシーに乗り込んでしまった。
「実咲、ちょっと待って」
 手を振る実咲を乗せ、タクシーは夜の街を走り去って行った。

「もう……」
 気を利かせたつもりなのだろうが、実咲は完全に誤解している。高岡とは、気安く送ってもらうような関係ではないのに。
「お友達、帰ってしまいましたね」
「ええ……」
 置いてきぼりになり途方に暮れているユリを見て、高岡は再び言った。
「やはりお送りしましょう。女性の一人歩きは物騒ですから」
「え……でも……」
「近くの駐車場に車を停めてあります。行きましょう」
 当惑しているユリを促す高岡。つられてユリも踏み出すが、アルコールのせいで足取りがおぼつかない。
「おっと、足元に気をつけて」
 高岡はごくさりげなくユリの腕を取り、走り抜けて行く車から守るように車道側を歩き出す。あまりにも自然な振る舞いで、ユリはいつの間にか高岡のペースに乗せられてしまっていた。


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