刑事の妻-9
「ねぇ、マギー?マギーは上原さんの背中を追って刑事として世の中の犯罪に立ち向かっていた気持ちを無くしてしまったの??それでいいの?マギーの刑事としての信念ってそんなもんだったの?私はサーガ事件の時、マギーには一生頑張っても勝てないって思った。ホントに上原さんを追い越す事が出来る物凄い刑事だと思った。でも今のマギーになら勝てるような気がする。言い方悪いけど、男にうつつを抜かしている女に負ける気がしない。目の前に市民の平和を脅かす犯罪が立ち憚っているのに男にうつつを抜かしてる女になんか絶対に負けない。私、紀香をおぶって現場復帰しようかしら。私は少しの間しかいなかったけど、城南市が好き。レイプ犯罪に真剣に取り組んでる千城県が好き。私はこの街の平和を心から願ってる。だからマギーが真剣にやってくれないなら私がやる。」
物凄い目力だ。きっとハッタリでもなんでもなく、さとみは本気でそう思っているのだろう。刑事として燃えたぎる情熱の目…、マギーには眩しすぎる程の輝きに思えた。
本気の人間の目…、 その目に見つめらているマギーには恥ずかしさしか感じなかった。それは自分がその目に見つめられるに値しない人間だと認めているからそう感じるのであった。自分はどんな目で捜査に当たっているのだろう、大した成果が上げられていないのは自分が本気で犯罪に向き合っていないからなのではないか、そう思った。まんな真剣だ。眠い目を擦り、でも決して輝きを失わずに毎日毎日靴底を減らして頑張っている。それに比べて自分はどうなのだろう。ハイヒールをすり減らしているだろうか、くたくたになるまで捜査に当たっているのだろうか…、その自らの問いかけに全て否定的な答えが出る。そしてマギーは自分に問いかける。
(私は何の為に刑事をしてるの…?加奈の復讐?いや、初めはそうだった。犯人の植田らを全員殺す為に私は刑事になった。でもそれは間違った道だと上原さんに教わり、私は復讐に人の命を奪う事は間違ってる事だと気付いた。でもその無念が燻っている事を上原さんは知ってて、また上原さんは華英の件で私を殺人者にしないよう助けてくれた。私は殺人者にはならない。じゃあ私は刑事としてどんな生き方をすればいいのか…。私は…、私は…)
マギーは自分の中で自問自答を繰り返す。そんなマギーをさとみはジッと見つめていた。
(犯罪者に罰を与えるのが刑事じゃない。犯罪の起こらない平和で幸せな世を作るのが警察の役目。その為には犯罪を絶対に許さない気持ちが大事。弱き者、そして小さな命を一生懸命守るのが刑事の役目…。加奈は復讐をきっと望まない。犯罪の起こらない世界を望むはず。私はその加奈の願いを叶える為に刑事をするんだ!私はそれを加奈に誓う。しっかりしろ、マギー!私は刑事…刑事なんだから!)
マギーの中で自分を奮い立たせ、ゆっくりと顔を上げ、さとみを見つめる。その目はようやくさとみと対等の輝きを見せていたのであった。