１-1
「焦らなくていいから…そう、ゆっくりね……んっ…入った…ゆっくりでいいから動いてみて…そう、んん…」
「アキ姉ちゃん…痛くない？」
「うん、大丈夫っ…んんっ…」
薄暗く埃臭い部屋の中で視線を反らす余裕もなく、言われるがままに動いた。その時の汗ばむ肌の熱を久し振りに思い出したのは、夢の中に彼女が出てきたからだ。
「まだ夢に見るのかよ…」
枕元に置いていた携帯を見ると7時前、学校も休みと言うのに随分と早く目が覚めたものだ。もそもそとベッドから這い出し、トイレで用を足したが治まらなかった。夢のせいだ。
部屋に戻ると携帯をいじり、違法ダウンロードしたアダルト動画を見ながら抜いた。動画のフォルダは、ショートヘアーでブレザー姿の清純派女優で埋め尽くされている。アキ姉ちゃんがそうだったからだ。
なぜ今になって13歳で初体験をした時の夢を見たのか分からない。たった一度きりで終わった関係は、その後幾度となく俺の頭の中で繰り返され、それをネタに何百回と手淫をした。遠縁ではあるが血が繋がり、姉のように慕ってきた人と男女の関係になったことは、俺の性癖を変えるほどの衝撃だった。
果てた後の処理を終えたところで、ティッシュの箱が空になった。先週彼女と別れ話になった時、彼女が涙と鼻水を拭うために大量に消費したのを思い出した。自分のハンカチを使えばいいのに、あの女は嫌がらせのように人の家のティッシュを使った。みるみるうちにゴミの山と化していくティッシュにばかり気を取られ、後半はどんなやり取りをしたのか覚えていない。
やれやれと思いながら新しい箱を出そうと押し入れを開くと、1箱も残っていなかった。
「うわーマジかー」
二度寝するつもりだったがティッシュは必需品だ。日常生活に、主に性的な面で支障をきたしてしまう。
仕方なくダラダラと身支度を済ませて近所のコンビニまで歩いた。郊外にしかないマイナーなコンビニだが、品揃えはいい。肉類やカット野菜まで売っているから独り暮らしの大学生には都合が良く、日常の買い物の殆どが賄える。そのはずだった。
「ない…マジかー」
まだ8時を過ぎたばかりなのに、ティッシュとマスクだけがきれいになかった。よく見てみるとティッシュだけではない。マスクもないしキッチンペーパーに汗拭きシートもなかった。紙類がないのだ。
俺は2日前にSNSでデマとしか思えない情報が飛び交っていたのを思い出した。他国のティッシュの生産が…とか何とか。まさか信じた人間がいるのかと驚きながら、向かい側のコンビニに足早に向かってみた。
「えー、マジかー…」
もう少し離れたコンビニに行ってみた。
「マジで？」
仕方がないので開店時間まで待ち、近所で一番大きなスーパーまで足を伸ばしてみたが、ティッシュもトイレットペーパーも陳列棚から消えてしまっていた。
「うわー…マジかー…」
朝起きてからマジしか言ってないことに薄々気付いていたが、それどころの話ではない。トイレットペーパーすら買い占められるとは。ティッシュしか確認していなかったが、トイレットペーパーのストックはあっただろうか。
俺は不安になって急いで家に戻ってみたが、幸いトイレットペーパーは充分予備があった。次の入荷までは持つだろう。安心して胸を撫で下ろしたところで、携帯が鳴った。
『アキ姉ちゃん』
と名前が出ている。俺は慌てて携帯を落としそうになった。
「もしもし？」
「あ、ハルキ久し振り。元気してた？」