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雪の華
【ファンタジー 官能小説】

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雪の華-5


「いく、いきそう……」
 布団の上で身悶えする大人びた肢体が悦楽の色に染まっていく。そんな少女の様子を愛おしく思いながら朔太郎は意地悪な腰つきで焦らして、焦らして、甘えた声でおねだりされると子宮を揺らすほどのいきおいで竿を抜き挿しする。
 絶頂に達しそうな花梨はそばにある枕を手に取り、それを口に当てる。あえぎ声を聞かれるのが恥ずかしいのだろう。
「ん、んん、ううん、んっ」
 途切れ途切れのくぐもった吐息が枕を通り抜けて聞こえてくる。体の繋ぎ目はひどく濡れてぬちゃぬちゃと音を立て、二人の体から出た何らかの粘液でそこが糸を引いているのだと容易に想像できる。
 間もなく朔太郎は達し、少し遅れて絶頂を迎えた膣が、きゅん、と縮んで締めつけてくる。少女の敏感な体はびくんびくんと痙攣を起こし、それがようやくおさまったと思った後、閉じていた花梨の目がゆっくり開いた。何かを告げようとしている。
「うん?」
 朔太郎がたずねると、微熱をおぼえたような表情の花梨は可愛らしい口元に笑みを浮かべ、ふたたび目を閉じた。その唇に朔太郎の唇が重なりにいく。どこまでも深く沈んでいく意識の中、交わり続ける少女の体内の温もりだけが朔太郎のよりどころだった。
「はあ……、すごく良かった」
 小さな胸のふくらみを上下させながら花梨は満足げに吐息をつき、朔太郎から手渡されたちり紙で自分の股間を拭く。たったそれだけの所作が何とも健気(けなげ)でいやらしく、やはり一晩限りの関係にしておくのはもったいないと朔太郎は花梨のことを口説きにかかるが、
「私、もう、帰らないと……」
 そう言って突き放されるものだから余計に別れが辛くなる。お世辞にも居心地が良い部屋とは言えないし、気の利いた言葉の一つもかけてあげられないけれど、愛の営みでなら満足させてやれる自信が朔太郎にはあった。
「どうしても帰るんだね」
「ごめんなさい……」
 名残惜しそうな顔で花梨は顔を伏せ、生々しい性交の痕跡を残した布団から立ち上がる。儚い象徴であるかのような下腹部の割れ目が美しい。朔太郎の右手がそこへ伸びて太い中指でもって悪戯する。
「あんっ」
 みじかいあえぎ声を漏らした花梨は朔太郎の肩に寄りかかり、中をかき回される格好のままで雪解けのような愛液を垂らす。そうして最後の最後まで彼女なりの恩返しを果たし、昇りつめたのと同時に窓の外がにわかに白けてくる。夜が明けたのだ。
 なんと穏やかな光景なのだろう。窓枠に切り取られた白銀の世界に朔太郎は見惚れていた。あんなに垂れ込めていた雪雲はどこかへ去り、空中に舞う氷の粒がきらきらかがやいてまるで銀河を見ているようだ。
「そこまで送るよ」
 無理に笑顔を繕う朔太郎は、身なりをととのえたキツネ──いや、花梨のことを玄関の外まで連れて行き、あらためて感謝の気持ちを口にした。そして何か手土産でも持たせてやろうと手を差し出す。
「これ、君にあげるよ」
 あの日、玄関先に残されていたメタセコイアの木の実で作った吊るし飾りだ。
「ありがとう」
 花梨はそれを両手で受け取ってから胸に抱き、さらに続けた。
「目をつむって」
「えっ?」
「お願いだから目をつむって」
 朔太郎は言う通りにした。これで花梨の姿は見えなくなった。
「そうしたらゆっくり、十まで数えて」
「何かのおまじない?」
「ううん、違うの。山に帰る私の後ろ姿を見られたくないから」
「そうか、わかった」
 瞼を閉じている朔太郎は視覚以外の神経を使って花梨の気配を探った。彼女はまだすぐそばにいる。夕べ嗅いだ匂いもするから間違いない。
「いち……、に……、さん……」
 数を数え始めると、きゅっ、きゅっ、と素足で雪を踏みしめる音がだんだん遠ざかっていくのがわかった。離れたくないという気持ちがしだいに膨らんでいく。
「し……、ご……、ろく……」
 別れの時が近づくたびに、胸の中にぽっかりと空いた空洞がしくしく疼いて思わず目を開きたくなる。けれども朔太郎は最後まで約束を破らなかった。
「しち……、はち……、く……」
 朔太郎は願った。どうか、あのキツネの娘が無事に巣穴までたどり着き、いつまでも幸せに暮らせますように、と。
「じゅう……」
 長い沈黙が辺りを支配していた。人間、生きていれば不思議なことが起きるもんだなあ、と朔太郎はしみじみ考えながら目を開けた。そして、きっとこれは夢なのだろうと思いたかった。
 目の前に……花梨が立っていた。
「どうして……」
 それこそキツネに摘ままれたような顔で朔太郎が困惑していると、花梨は何も言わずに純粋な微笑みだけをよこし、真っ白な頬をぽっと赤らめた。
 やっぱり帰りたくない、一生を捧げてでも恩返しがしたい──少女のあどけない眼差しからはそんな覚悟が読み取れた。
 いつか冬が終わり、雪が溶けて桜の花が咲き乱れる季節が来たとしても、この気持ちだけは変わらないのだと胸を熱くする朔太郎だった。


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