思い出はそのままに-56
祐樹は、あれから消えた。家は、売りに出されている。
美由紀のことは知らない。あれから、連絡もしていない。だからといって、忘れたわけではない。美由紀の会いたかった。美由紀の声を聞きたかった。
浩之は、あれから部屋に引きこもっていた。外へ出る気はおきない。美奈と菜美が何回か来たが、浩之は会わなかった。
部屋の片隅に小粥がおいてある。母がわざわざ作ってくれたが、口にはしていない。食欲もないし、食べてもすぐに吐くのだ。ここ最近は、食べて吐いての繰り返しだった。浩之は、かなり痩せた。今では、死人のようになっている。さすがに、両親も心配している。だが、どうすることも出来なかった。
『謝れ』という声が聞こえる。祐樹が、浩之をばかにしている。浩之を笑っている。昔のように、怒りは湧いてこない。変わりに、身を切るような恥辱が、浩之を襲った。
祐樹は、浩之が祐樹のセックスを覗いて自慰をしていた事を知っていた。浩之は、そんなことも知らずに、祐樹の前でいきがっていたのだ。祐樹は笑っていただろう。いや、同情さえしたかもしれない。そんな浩之が、美由紀をものにしようというのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。祐樹に、浩之が敵うわけがないのだ。
だが、浩之は美由紀だけを見つづけてきたのだ。小さな時から、ずっと美由紀が好きだった。この想いだけは、誰にも負けないつもりだった。
美奈を抱いたのは、間違いだった。祐樹にセックスを見せつけられて、屈辱で押しつぶされそうだった。祐樹の、あの浩之を見下した目。それが忘れられなかった。だから、美奈の誘いを断りきれなかった。だが、本当に美由紀のことが好きならば、美奈など抱かなければよかったのだ。
浩之が美奈たちを抱いていたことを知ったときの、美由紀の目。あの獣を見るような蔑むような目。
胃が痙攣する。堪えきれなくなって、浩之は吐いた。胃液しか出て来ない。吐けるものは、すべて吐いてしまった。だが、胃の痙攣は止まらなかった。浩之はそのまま、胃液を吐き出しつづけた。苦しくて、部屋をのた打ち回る。『謝れ』という声がきこえた。この声はどうやっても消えない。浩之は、狂ったように頭をかきむしる。毎日が、この繰り返しだ。
死にたかった。このまま生きていて、何になるのか。負け犬の自分がこのまま生きていても、恥をさらしつづけるだけではないか。こんなことばかり、考えてしまう。
浩之の手には、美由紀の写真がある。それだけが、浩之の救いだった。もしかしたら、美由紀が帰ってきてくれるのだはないか。そんなありもしない空想に浸って、毎日生きているのだ。
少し前に、祐樹から小包が来た。中身は、ビデオテープだった。まだ、見てはいない。怖かったのだ。
見たくはなかった。だが、見ないわけにはいかない。このまま、祐樹負けつづけるわけにはいかない。
浩之は気力をふりしぼると、そのテープを手にとると、ビデオデッキにセットした。再生ボタンを押した。
「ああっ・・・いい・・・祐樹っ! すごくイイよっ!!」
美由紀だった。祐樹の膝の上に乗って、足を広げている。二人とも、全裸だった。美由紀の秘部は、祐樹にいじられて、かなり濡れている。
浩之の心臓は、止まりそうになった。なぜ、美由紀がいるのか。浩之は、信じられなかった。
「キャハハハ! お兄ちゃん見てる? 祐樹だよ。もう忘れちゃったかな?」
祐樹は頬が削げ落ちて、かなりやつれていた。だが、目だけが生き生きしている。
「お兄ちゃんに、美由紀の姿を見てもらおうと思ってね。ほら、美由紀のおなか見てよ! 大きくなってるでしょ!」
美由紀のお腹はかなり大きくなっている。詳しくはわからないが、妊娠してかなりの月日がたっていることがわかる。乳房も、前よりは大きくなっているようだ。
「ほら、ミルクも出るんだよ!」
祐樹が、美由紀のパンパンに張った乳房を揉んだ。
「いやぁ・・・ああっ・・・祐樹、だめぇ」
乳首から、白い液体が出てくる。母乳。祐樹が揉むたびにあふれてくる。祐樹が、美由紀の乳首に口をつけた。強く吸う。
「ああん、ああっ・・・気持ちいい! 乳首、気持ちいいよ!」
美由紀が甘い声をあげる。祐樹に媚びていた。
祐樹が、喉を鳴らして美由紀の母乳を吸う。美由紀は、母乳を吸われ、蕩けたような目をしていた。
浩之は、見ていて気持ち悪くなった。目の前にいるのは本当に美由紀なのか。短期間で、これほどまでに変わってしまうものなのか。祐樹のやつれ具合から見ても、毎日、それこそ一日中犯しぬいたのだろう。それで、美由紀はおかしくなってしまったのか。しかし、やつれている祐樹とは対照的に、美由紀は美しかった。前より格段に美しさくなっている。まるで、祐樹の生気を吸い取っているようだ。