思い出はそのままに-48
浩之は目を開けた。どれくらい意識を失っていたのだろうか。目はまだ痛む。後頭部にも、痛みがあった。後からなにかで殴られて、意識を失っていたのだろう。
ここがどこなのかはわかる。地下室だ。匂いでわかった。
後ろ手に、手錠をかけられていた。オモチャの手錠だ。だが、外れない。浩之は舌打ちをした。
美奈も、沙織と同じように狂ったのかもしれない。あるいは、美奈はずっと祐樹のことがが好きだったのか。浩之に抱かれたのは、祐樹へのあてつけだったのだったのではないのか。美奈を、甘く見すぎたのかもしれない。悔しさに、唇を噛んだ。
「キャハハハ! 情けない姿だね。お兄ちゃん」
「くっ、祐樹!」
目が霞んで、祐樹の姿は見えない。苛立ちがつのった。
「お兄ちゃん、なかなか起きないんだもん。死んだのかと思ったよ」
「おまえ、何をするつもりだ!」
「お別れの挨拶だよ。お兄ちゃんと先生のおかげで、ボクはもうここにはいられないと思う。だから、最後にお兄ちゃんのお別れを言おうと思ってね」
「知ってたのか・・・」
「そうだよ。美奈が教えてくれたんだ」
「くそっ! おまらは、つるんでいたということか」
「美奈を責めちゃいけないよ。美奈は、本気でお兄ちゃんが好きだったんだ。だから、ボクに協力してくれたんだ」
「お兄ちゃん、ごめんね・・・」
「いたのか」
浩之の後ろから、声が聞こえた。美奈が近づいてくるのがわかる。目は、痛くて開けられない。
「そのままにしてて」
目に、濡れたタオルを当てられた。痛みが和らいでいく。
「美奈、なんでこんなことを」
「ごめんなさい・・・だって・・・だって、ワタシ・・・」
美奈が、泣いているようだった。
目の痛みが薄れてきた。だんだん、はっきりと見えてくる。
「菜美! おまえもいたのか・・・」
美奈の後に、菜美がいた。泣いている美奈を、抱いている。二人とも裸だった。
「ククク。お兄ちゃん、もてるねぇ」
祐樹の姿も、だんだん見えるようになってきた。祐樹も裸だった。
「なんだ?」
ベッドがあった。祐樹たちが、いつもそこで美奈たちを犯していた。今、その上に誰かがいる。はっきりは見えない。
「誰かいるのか?」
「お兄ちゃんがよく知ってる人だよ」
「なに?」
「わからないかい?」
目の状態もかなりよくなってきた。はっきり見えるようになる。
「み、美由紀!?」
「そうだよ。お姉ちゃんだよ」
「おまえ、なに考えてるんだ!?」
「なに考えてるんだって!」
祐樹が、浩之を睨みつけた。
「おまえが、身の程知らずな事をしたから、こんなことをしなければならなくなったんだよ!」
祐樹の顔が、赤黒くなっている。鬼の形相をしていた。こんな祐樹は、見たことがなかった。
「こしぬけのくせに・・・ボクのセックスを覗いて楽しむ変態のくせに!」
「な、なに・・・」
祐樹は知っていた。浩之が、祐樹のセックスを覗いていたことを知っていたのだ。
「お兄ちゃん知ってた? お姉ちゃんは、お兄ちゃんのことが好きだったんだよ。ずっと前からね。お姉ちゃんは、お兄ちゃんの写真を、大事にもっていたんだ」
美由紀は、浩之のことを好きだったと言った。だが、それをなぜ、祐樹が知ってるのか。
「お姉ちゃんは、ボクだけのものなんだ。だから、他の男を好きになってはいけないんだよ」
「何を言ってるんだ・・・」
祐樹と美由紀は、姉弟のはずだ。しかも、義理でもない、血の繋がった姉弟のはずだ。それを、祐樹は好きだと言っている。
「お姉ちゃん、ボクのお嫁さんになる人なんだ。それを・・・おまえなんかに・・・おまえなんかに! お姉ちゃんは、お兄ちゃんの写真を見て、オナニーしてたんだ。来る日も、来る日も。浩之くん、とつぶやいて、マ〇コいじってたんだよ! こんなのは、お姉ちゃんじゃない! 間違ってる!」
祐樹の目が血走っている。祐樹は、こめかみを抑えると、自分を落ち着かせた。
「ボクは、その写真の男がお兄ちゃんだと知ったとき、どんな男かと思ったよ。うだつの上がらない男。なんでこんな奴が、と思ったよ。でも、お姉ちゃんも間違うこともある。お姉ちゃんは、純粋な人だからね」
「俺にわざと見せてたのか?」
祐樹は笑った。
「違うよ。いや、そうなのかもしれない。お姉ちゃんの心を奪ったお兄ちゃんが、許せなかったのは事実だよ。でも、ボクは忘れられなかったんだ。あのお姉ちゃんがマ〇コをいじってる姿。あの気持ちよさそうな顔。思い出すと、心臓が張り裂けそうになるんだよ!」
祐樹は腕を広げ、まるで劇でも演じてるかのように語っていた。反吐が出そうだった。