思い出はそのままに-22
「ねえ、本当にやるの?」
祐樹が言った。
「他に、なにか考えがあるのか?」
祐樹は何も言わなかった。
元はといえば、おまえが原因なんだろう。浩之はそう言おうと思ったが、止めた。祐樹はまだ子供なのだ。浩之が何とかしなければならない。
うまくいくのか。もし、うまくいったとしても、長くは持たない。健太がこれでは、いつかばれてしまう。そろそろ、終わりを考える時期にきているのかもしれない。
どうやって、抜け出すか。なるべく、穏便な形で終わらせたい。今、浩之が抜け出せば、間違いなく祐樹は、浩之の名を言うだろう。そして、浩之が、美奈や菜美、美咲達を犯したということにされるのだ。
祐樹に対する怒りはない。もう、済んだことだ。今は、この状況をどう切り抜けるか。それが、重要だった。
浩之は目をつぶった。『謝れ』という声は、もう聞こえない。それだけでも、随分とましだ。
沙織の家は、マンションだった。
「よく行くのか。先生の家には?」
「うん。勉強会があるんだ」
武士が言った。武士は心なしか誇らしげだった。
浩之が小学校の頃、同じようなことがあった。優秀な生徒だけを集めて、勉強会をする。選ばれた生徒は、誇らしげな態度をするのだ。浩之は、それがひどく嫌いだった。それをやった教師も、沙織といった。
「武士、インターホンを押せ。おまえが最初に入るんだ」
武士がぎこちなくうなずいた。祐樹はさすがに落ち付いている。武士がインターホンを押した。返事がした。ドアが開く。
「いっらっしゃい。武士くん」
見覚えのある顔だった。変わったといえば変わった。あれから、五年くらいは経っているのだ。それでも、美しさは変わらなかった。
「あれ・・・」
沙織と目が合う。
「浩之くん・・・?」
「こんにちは」
「え、ええ・・・こんにちは」
沙織は面食らっている。浩之は笑った。沙織もぎこちなく笑った。
「こんにちは。先生」
「祐樹くんも・・・」
沙織が武士を見た。なぜ、という顔をしている。
「あ、あの・・・」
「先生。今日は、健太くんのことについて、お邪魔したんですよ」
浩之は、武士が言う前に言った。武士はあてにならない。というより、信用できなかった。沙織の犬だと思っておいたほうがいい。
「健太くんの・・・」
沙織が顔が強張った。
「先生。中に入ってよろしいでしょうか?」
「そ、そうね。浩之くん」
浩之達は中に入った。中は上品な感じだった。沙織の性格を表しているようだった。
沙織に夫はいない。それについては、いろいろと噂があった。沙織はまだ若い。美奈や菜美の年齢を逆算すると、噂になっても仕方がないところがあった。
沙織がお菓子を出した。たわいもない話をした。沙織は、落ち付かない様子だった。
「あの・・・健太くんのことなんだけど・・・」
沙織の方から切り出した。
「そうなんですよ、先生。少し困ったことになってるんですよ。まずは、先生に見てもらったほうがいいと思いましてね」
浩之は、バックからビデオテープを取り出した。武士に渡す。武士はためらった。浩之は睨んだ。武士はうなだれると、ビデオテープをセットしに行った。
「なんなの?」
「見ればわかりますよ」
浩之は笑った。武士が、再生ボタンを押す。
「あん、あん、あん、イクううう!!」
「くうううっ! 出るうううっ!!」
健太が、美咲に中出ししている映像が流れた。沙織は、何が起こっているのかわからない様子だった。
「どうです、先生。これは問題があるでしょう。二人とも、心身ともに未成熟ですから、こういった行為はまだ早いと思うんですよ」
「あ、ああ・・・」
沙織は言葉が出ないようだった。
「それにしてもすごいですね。またしてますよ。二人は、暇さえあればしてるんですからね」
健太は、また美咲に挿入している。
「ど、どういうこと・・・浩之くんが、なんでこんなものを・・・」
「実は、もう一つ見てもらいたいものがあるんですよ」
浩之は武士を見た。武士が震えている。
「どういうことなの・・・浩之くん・・・」
沙織の唇が震えている。まだ、よく理解していないようだ。
「とにかく、もう一つのビデオを見てください。武士、もう一つの方を」
武士は目に涙を浮かべている。
「武士、早くしろ。もう、逃げられないんだぞ」
武士は泣きながら、もう一つのビデオを入れた。