レイニィガール-2
*
どうせならそのまま帰ってしまおう、とパソコンを終了させて鞄に仕舞った。
ラップトップは便利だ、と滝田は思う。
車中の夕香ははしゃぎ通しだ。
「うれしー、先生の車。シートいっぱい触っとこ」
雨で道は混んでいる。駅前まで車が連なり、時間は少しかかりそうだ。
「君も物好きだね。僕のどこが良いの」
嬉しそうにシートを撫でる夕香に声を掛ける。
「笑うと目が細くなるとこ。あと声と指と、うーん、全部好き」
にこにこと語る夕香の声に、滝田は笑みをもらした。
「変わってるな」
「どうして?」
「僕はモテないよ」
滝田がそう云うと、夕香は笑う。
「みんなそうじゃん。漫画じゃあるまいし、そんな人気者なんてそう居ないよ。大体、モテる人しか好きになっちゃいけないわけなの?」
「まあ、そうか」
云われてみればそうだと滝田は思うが、若い頃と云うのは一人が人気になる事もある。
何故なら群れる意識が強い若年層は、同じものを好きでなくてはならないと考えがちだからだ。
流される感情がない時点で夕香はやはり変わっていると滝田は思う。
「あたしは先生が好きだから、好きなだけ」
「でも卒業したら、忘れるよ」
苦笑しながら滝田は云う。まるで自分に云い聞かせているようだったからだ。
「そんなの解んないよ。一生好きかも知れないし、卒業より前に忘れるかも知れないし。だけど今日のあたしは、先生が好き。それだけだよ」
あっさりと夕香は返す。
滝田はなるほど、と感心した。
「永遠に好きとか、あたしはよく解んない。でも必ずいつかは好きじゃなくなるってのも解んない。あたしは毎日毎日、自分の気持ちがどうなるかなんて解んないよ」
じっと、夕香は滝田を見つめる。
その視線に絡め取られるのが怖くて、滝田は一度も夕香を見ない。
「先生があたしの事ウザいなら、そう云ってくれて良いよ」
穏やかにそう云うと、夕香も前を向く。
巧く話せない自分よりも、彼女の方が大人だ―――。
前とワイパーだけをひたすら眺める滝田は、自分が夕香よりもずっと子供な気がして、こっそりと嘆息する。
「よく降るね」
「ああ」
滝田は、やっぱり言葉が出ない。
夕香は静かに外を見ている。段々と駅が近付く。滝田は、何故だか焦る。
「なあ、相川」
「ん?」
話しかけられたのが嬉しいのか、夕香は微笑んでいた。
「家の近所まで、送ってったら迷惑かな」
「え、なんで?あたしは嬉しいけど」
不思議そうに首を傾げて夕香は問うた。