是奈でゲンキッ! 番外編 『シークレット・ガールズ』-8
〜〜〜〜〜
突然掛かってきた携帯電話に、是奈はもしかして田原くんなぁ、などと淡い期待を浮かべて薄ら笑いをすると、少しじらすように放置した後、それでも期待に胸を踊らせながら、二つ折りの携帯を開いて電話を耳に当てた。
「はいは〜〜いっ! おまたせぇ是奈だよぉ〜」
ひょうきんな裏声を出して、相手に返事を返す是奈。すると。
”このばかもの! なにをグズグズしているかっ! 緊急コールの時はさっさと電話に出ろと、いつも言っておるだろうがあっ!”
突然の怒鳴り声に目を回す暇も無く、慌てて電話を耳から遠ざけると、是奈は「あちゃ〜〜」と顔を顰めながら、もう片方の耳の穴を、指で塞いだりもする。
(緊急コールって言ったって、着信音が違う訳でも無のに、そんなの解る訳ないよっ!)そんな事を思いつつ。
「はっ! 申し訳ありません!!」
と、慌てて持っていた携帯に敬礼をして見せると、恐る恐る、また電話を耳に押し当てる。
”まあ良い。それよりガーディアンZ、緊急事態である。今しがた怪盗ミーヤが現れ、交通博物館に展示されていた『デコイチ』のナンバープリートを強奪して逃走した。あれは我が国にとっても貴重な文化遺産なのだ! 即刻やつを追跡して、これを奪還(だっかん)せよ ”
淡々と命令口調で語る電話の相手に、是奈は真面目な顔をして頷きながら、相槌を打つと。
なるほど、この煙騒ぎは奴がナンバープレートを盗み出すために起こした、カムフラージュってわけね。と納得もする。
”なお作戦に当たっては、如何なる手段をとっても構わん。怪盗ミーヤの生死も問わない。必ずやナンバープレートを取り返すんだ、良いなっ!”
「はっ! こちらガーディアンZ、任務了解しました!!」
怪しげな命令を復唱して、是奈は又しても相手の見えない携帯電話に向かって敬礼をする。そうして今度は、小さなドリンク剤のような小ビンをスカートのポケットから取り出だし、それを一気に飲み干した。
途端に是奈の身体全体が金色に輝き出し、その髪の毛も見る見る逆立って、真っ赤に成ると、まるで某スーパーサ○ヤ人の様なオーラを全身から放ちながら、疾風のごとき速さでもってミーヤを追い駆けるべく、勢い良く走り出すのだった。
一方、怪盗ミーヤこと『佐藤都子』はと言うと。
博物館を抜け出し、隣接した秋葉原の電気街通りに沿ってホコテンを勢いよく駆け抜けると、直ぐ隣町である御徒町(おかちまち)を越えて、その先の上野公園の少し手前まで遣って来て居た。
ミーヤは大きなSLのナンバープレートを脇に抱えたまま、何度も後ろを振り返り、どうやら追っ手の無い事を確認すると、たどり付いた『忍ばずの池』外縁に設けられたフェンスに、持っていたプレートを立て掛けて、自身は少し離れたバス亭前のベンチへと腰を下ろした。やれやれと、何気に額に噴出した汗を一生懸命、手で拭ったりもする。
そんなミーヤの姿を、通りかかったお爺さんが繁々(しげしげ)と、訝(いぶか)しみながら見ては居るものの。
「こんにちはお爺さん。きょうは暑いですねぇ」
なんて、気さくに声を掛けて来るミーヤに、通りすがりのお爺さんも、
「そうだねえぇ。……コスプレかい?」
「はいっ! ちょっと秋葉原の方で…… もう帰るところです」
「そうかい。いや〜ぁ若い子はええやのぅ、フォフォフォッ」
袖擦れ合うも多少の縁、ではないけれど、気さくに声を掛け合い、手を振り去って行くお爺さんに、ミーヤも手を振って見送り。どうやら、事無きを得た様子である。
しばらくそんな事をして居たであろうか、すると。
「見つけたわよ怪盗ミーヤっ! 盗んだ物を即刻返しなさいっ!」
そう叫びながら、突然真っ赤な髪の女の子がミーヤに殴りかかって来たではないか。もちろんその女の子が、是奈の変身した姿だとは、都子に解ろうはずもなく。無論、ミーヤがクラスメイトの佐藤都子で有る事など、是奈が知る由も無かった。
ミーヤは、とっさにその女の子の攻撃を飛び退いて辛くも交すと。
攻撃して来た女の子の鉄拳は、空を切り、勢い余って、今までミーヤが腰掛けていたベンチを、バス停の停留場に設けられていた、雨よけの屋根ごと粉々に粉砕していた。